約 1,702,082 件
https://w.atwiki.jp/riboonn/pages/31.html
ハルヒ 一言:あ~な~た~のー髪色~ す~こ~し~色~素が~ う~す~い~の~ねー♪(ネ・ネ・ネ・ネ・ネクロマンサー!!(※違います)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2661.html
先ほど言ったと思う。 これからは何との交流が待っているのか。 それが楽しみだ、と。 こうしてとりあえずのハッピーエンドを迎えたからにはもうそれほど無茶なことはないだろうと思ったからだ。 ここで言う無茶なことってのは誰かに危険が訪れたり、世界におかしな現象が起きたりってことだ。 きっとハルヒはもうそんなことは望まないはずだ。 だってそうだろ?こうしてSOS団がいる。ハルヒがいる。少なくとも俺は幸せだったからだ。 悪夢はもう終わった。いや、あれは悪夢ではなくいい経験ですらあった。そう考えて俺は安心しきっていた。 だからその前触れに全く気付かなかった。 ハルヒのあの言葉を完全に失念していた。俺はあのとき微かに聞こえた言葉の意味を理解していなかった。 ひょっとすると、この悪夢はまだ始まってさえいなかったなのかもしれない。 ◇◇◇◇◇ 少年は空を見上げていた。 おそらくはもう会うこともないであろう少年の姿を思いながら、少しずつ赤く染まる空を見上げていた。 そのとき彼の携帯電話が着信を告げ、彼はそれに答える。 その電話は彼の良く知る少女から呼び出しだった。 その少女の楽しそうな声を聞きながら彼は思った。おかしい、と。 なぜなら、彼が想うその少女は、今は別の少年と共にいるはずだから。 そう、彼が先ほどから思い浮かべていたその少年と。 不安を胸にしまいながらも、少女の言葉に従い、彼は自分の過ごし慣れた場所へ足を向ける。 文芸部、もといSOS団の部室へと。 『涼宮ハルヒの交流』 ―最終章 後編― とりあえず俺の元気そうな様子にみな安心したのか、病室であるにもかかわらず、5人での会話は盛り上がる。 これからのSOS団について、これからの俺の仕事について、先ほどの三人の盗み聞きについて。 とは言っても長門はいつものようにあまり喋ることはなく、時々相づちを打つ程度だったが。 それでも今の俺からはそんな長門もなんとなく楽しそうに見えた。 話が一段落した後にハルヒが提案する。 「キョンも病み上がりだし、あんまり無理させてもあれだし、ちょっと休憩しましょ」 ……休憩?病み上がりだからゆっくり寝させてあげましょうって発想はこいつにはないのか? いや、ないんだろうな。 「そうですね。では何か飲み物でも買ってきますよ」 古泉が椅子から立ち上がる。 「今度はちゃんと買ってくるんだろうな?」 「もちろんですよ。信用がないようですね」 当たり前だ。こいつは信じられん。 「そうね。一人でみんなの分は持てないだろうから有希も古泉くんと一緒に行ってきて。 あたしはこいつの家族にキョンが目を覚ましたってことを連絡してくるわ。 みくるちゃんはこいつが変なことしないように見張ってて。あ、変なことされないようにね」 しねぇよ。何だよ。変なことって。 そういえばこんなことになって親は心配してるだろうな。……申し訳ない。 「じゃあ連絡は頼むな。元気だと伝えてくれ」 「ま、心配しなくていいわ。変なことは言わないから」 そう言ってニヤリと不気味に笑う。 こいつは言う。間違いなく変なことを言う。まじでやめてくれ。 「それでは行きましょうか。長門さん」 「行く」 長門は古泉の後ろについて部屋を出る。 「じゃあ、また後でね」 ハルヒも二人に続いて部屋を飛び出し、二人とは反対の方向に走り出す。 ……何だ?この感じは? 何かが変?いや、違う。少し前にも同じことがあった気がする。 同じこと?何か忘れているのか? 何だ?思い出せ。この感じは重要なことのはず。とんでもないことになるんじゃないか?あれは確か―― 「どうかしましたか?具合良くないんですかぁ?」 朝比奈さんの言葉で思考が中断される。 「いえ、問題ありませんよ。少し考えごとをしてただけですから」 「それなら安心です。良かったですぅ……」 呟くように言葉を発して、朝比奈さんはそのまま思いつめた顔でうつむく。 「……?朝比奈さん?」 少し間があり、小さく頷くと、朝比奈さんは真剣な表情でバッと顔を上げた。 「キョンくんは異世界に行ってたんですよね?」 「ええ、そうですけど。……ひょっとして嘘だと思ってます?」 「いえっ、そんな。……キョンくんが異世界に本当に行ってたことは知ってるの。……知ってたの」 「知ってた?どういうことです」 「詳しいことはわからないんだけど……、キョンくんが異世界に行くということは既定事項だったの」 なんだって?既定事項? 「てことは元々俺は異世界に行くことになってたってことですか?」 「そうなんです。そしてそのことを私は前から知っていました」 「なら、先に教えてくれるってのはできなかったんですか?結構大変だったんですよ。……って、すいません。」 つい声が大きくなってしまった。 朝比奈さんはまたうつむいてしまう。 「……ごめんなさい。詳しくはわかりませんがそれをあなたに先に教えることは禁則事項だったんです。 おそらくは……キョンくんが何も知らないまま行くということが大事だったんだと思うの」 そう言われてみればそうかもしれない。もしそのことを知っていたなら俺の行動は全く違っていたはずだ。 そうだとしたら、俺が異世界に行ったことが無意味だということにもなりかねないということか? 「なるほど、それは朝比奈さんの言うとおりかもしれません」 「でも、それを伝えられなかったことをキョンくんにちゃんと謝っておきたかったんです。ごめんなさい」 まったく、正直な人だな。言わなかったらわからないってのに。 そういえば、と、今の話を聞いてみて思い出した。 これだけ大量のお見舞いの品を持ってきたってことは、今日俺が目を覚ますって知ってたってことだよな。 この量は朝比奈さんからの謝罪の気持ちなのかもしれないな。 「それと、もう一つ謝らないといけないことがあるんです」 まさか、これからまた何かあるのか? 「キョンくんが異世界でどんな風に何をしてきたのかについて私は何もしりません。 でも、キョンくんがこっちに帰ってから何かがあるということはわかっていました」 つまり、その何かってのはさっきのあれ、告白のことですか? 「実は上からの指令で、キョンくんに問題が起こりそうになったらそれに対処するように言われていたんです。 それについても詳しくは聞かされていないのでよくわかりませんけど……。 それでさっき部屋の外で古泉くんと会って、キョンくんから目を離さないように話したんです」 ってことは、その指令のせいでさっきの告白が筒抜けだったってことですか!? くそっ、許せん。未来人め。なんという羞恥プレイだ。 「本当にごめんなさい。まさかいきなり告白するなんて思ってなかったの」 まぁそりゃしょうがないか……。 「ってことは、とりあえず何も問題は起こらなかったってことですよね?」 「……今のところは、そうみたいです」 未来人は何を考えてんだ?何が見たかったんだ?俺が一体何をするってんだ。 ……いや、そんなことしないっつーの!って、どんなことだよ。 「あのぉ、どうかしましたかぁ?」 いえいえ、なんでもないです。なんでも。 どうやら不審な様子が思いっきり出てしまっていたようだ。気をつけないと。 「正直言うと何が起こるのか少し怖かったんですけど、何もなさそうで安心しましたぁ」 そうですね。そんなこと言われると俺も怖くなってきます。 「まぁきっとなんとかなりますよ。特にどうしろって言われてないってことはそんな無茶なことはないでしょう」 「そうですね」 朝比奈さんも俺の言葉に頷き、ニコッと笑う。 「あまり心配し過ぎも良くないですよ。気楽に行きま――」 ガチャ、ドンッ!! 突然轟音を上げてドアが開かれた。 俺の知り合いでこんな荒い開け方をするやつは一人しかいない。しかもノックなしで。 「あら、みくるちゃん。キョンの調子はどう?」 「別にどうということはないぞ。健康だ」 びっくりして固まっている朝比奈さんに変わって答える。 「あらそう。ま、とりあえずは元気そうね」 ん?なんかおかしなこと言ってないか?さっきから元気だったろ? なんだろう、この違和感は。 「まぁいい。うちの家族はなんて言ってた?」 「家族?なんのこと?」 「は?何言ってんだ?俺の家に連絡してくれてたんじゃないのか?」 「連絡?……ああ、連絡ね。したした。ちゃんとしといたわよ」 いや、してないな。こいつはしてない。今まで何やってたんだ? なんか変だぞ。この感じは少し前にも……。あれは―― 「そんなことはどうでもいいのよ。それより……」 そこで最悪に不気味な笑みを浮かべ、 「あんたにおもしろい客を連れてきたのよ」 と言った。 嫌な予感がする。 たぶんこの嫌な予感は当たっている。 さっきの言葉、『じゃあ、また後でね』という言葉が頭に浮かぶ。 そう、さっきの言葉だ。 しかし、もう少し前にも聞いたような気がする。 あれはいつだったか。思い出せ。思い出すんだ。あれは……。 ……って、あのときか! しまった。なんでこんな大事なこと忘れてたんだ。ぐあっ、最悪だ。 あの時ハルヒは、『後でね』と確かに言ったんだ。 そう、このハルヒが。 「じゃ、呼んでくるわね」 「おい、ハルヒちょっと待っ――」 遅かった。 ハルヒはドアを勢いよく開け、 「いいわ。入りなさい」 と声をかけた。 満面の笑みを浮かべたハルヒの後ろから入ってきたのは、ほんの数時間前に別れたはずの『俺』だった。 見つめ合う二人。 止まる時間。 「ほら、挨拶しなさいよ」 『俺』がハルヒに引っ張られて前に出る。 「あ、キョンくんもお見舞いに来てくれたんですかぁ?」 って、朝比奈さん知ってるんですか?まさか、これも既定事項? 「……どうも朝比奈さん」 『俺』は朝比奈さんの方に軽く挨拶した後、俺の方に向き直る。 「……よぉ」 「あ、ああ」 はい、挨拶終わり。 戸惑う二人を楽しそうにニヤニヤ眺めるハルヒ。 しばらくの沈黙の後、『俺』が話しかけて来る。 「とりあえず元気そうで安心したぜ」 「ああ、おかげさまでな。心配かけてすまなかったな」 『俺』が首を振って答える。 「俺はいい。けど長門は心配してたぜ」 「そうだな。長門には本当に世話になった。こっちでちゃんと元気でやっていると伝えてほしい。 あと、弁当うまかった、ありがとう。って言っといてくれないか」 「ああ、長門に言っとくよ」 「へえー、有希に弁当とか作ってもらってたんだぁ」 こっちのハルヒと全く同じこと言いやがる。しかも同じ表情で。 話を変えるためにとりあえず状況を『俺』に聞いてみる。 「で、どうしてお前がここにいるんだ?」 「よくわからん。とりあえずハルヒに無理矢理連れて来られた」 「どうやってこっちに来たんだ?」 ハルヒは得意気にふふっ、と笑う。 「あんたが出入りしたおかげで異世界への行き方がわかったのよ」 ぐあっ、俺のせいかよ。いや、実際はこっちの世界のハルヒのせいだが。 「とりあえず、今はちょっとまずいん――」 「ひええぇぇぇええぇ!!」 突然朝比奈さんが絶叫する。 「キョキョキョ、キョンくんが、キョ、キョンくんが二人いるぅぅうぅ!!」 って今まで気づいてなかったんですか? 「あ、朝比奈さん、とりあえず落ち着いて下さ――」 コンコン。 「入りますよ」 挨拶と同時に入って来る古泉と長門。 「ああ、涼宮さんももう戻って来て……なっ!?」 ガッシャーン!! 古泉の手の中にあったジュースの缶が激しい音をたてて床を転がる。 ああ、なんという混沌とした状態だ。とりあえずみんな落ち着くんだ。 「こ、これは一体どういうことですか?何があったんですか!?」 二人の俺を見比べ、尋ねる古泉。 さすがの古泉も取り乱しているようだ。長門ですら少し目に動揺の色が見える。 とりあえず落ち着け、クールになれ古泉。今説明してやる。 「簡単に言うと、ここのハルヒとそっちの『俺』は異世界からきたハルヒと『俺』だ。で、合ってるよな?」 『俺』の方に目を向けると頷いて肯定する。 「どうやらそのようだ。俺はハルヒに無理矢理ここに連れて来られた」 「無理矢理って何よ。人を誘拐犯みたいに言わないでよ」 「いや、大差ないだろ。いきなりこんなところに」 「いきなりとかどうでもいいのよ。ついてきなさいって言ったらわかったって言ったじゃない」 「まぁ、それは言ったが……」 とりあえず二人で遊ぶのはやめてくれ。 「古泉、この状況はどうだ」 「おおよそしか把握できていませんが、正直あまりよろしくないですね。僕らの方の涼宮さんは?」 「まだだ。たぶん俺の家に電話中だろう。帰って来る前になんとかしないと」 「長門さん何か手はありませんか?」 「ないことはない」 「ではそれをすぐにお願いします」 「あまり推奨できない」 「とにかく時間がないかもしれません!お願いします」 必死だな、古泉。 「……わかった。情報連結解除開――」 「って、ちょっ、待て待て長門。それはダメだ」 長門、まさかお前までパニクってんのか。落ち着け、長門。お前もクールになれ。 それはさすがにまずいだろ。別の方法を考えよう。 「………」 「長門?」 「……今のはジョーク」 前言撤回。余裕ですね、長門さん。 さすがの古泉も口を開けて完全に固まっている。ちなみに朝比奈さんはとっくに固まっている。 「そうだ、あの見えなくなるフィールドみたいなやつは、どうだ?」 「私の権限では涼宮ハルヒという個体に対して力を行使することは許可されない。つまり……」 つまりなんだ? 「私には打つ手がない」 でもこれは違うハルヒだぞ。ならいいんじゃないのか? 「それでも無理」 なんてこった。こっちからは何もできないってわけか。 「とりあえずお前ら一旦帰ってくれないか?」 いちおう二人に言ってみる。 「嫌よ。せっかく遊びに来たのに」 「んなこと言うなって。また来ればいいじゃねえか」 「そんな簡単に言うけど結構疲れるのよ」 知らねえよ。俺の方が疲れるぜ。 「あのなハルヒ。こっちのハルヒに知られるのはまじでやばいんだ。頼む」 「そんな心配することないわ。あたしの方だってなんともないんだし」 「とりあえず迷惑っぽいし帰ろうぜ。何か起こってからじゃ大変なんだし」 さすが『俺』。話がわかるぜ。 「何かって何よ。そんなにたいしたことないかもしれないわよ」 「あのなぁ……たいしたことないって、あの古泉の様子を見てみろ」 そう言って『俺』は古泉の方を指差す。 古泉は完全に機能が停止している。目が虚ろだ。 「な、あのくらい大変な事態なんだよ。わかるか?」 「……わかったわよ。しょうがないわね。帰るわ!じゃあまた――」 ガチャ! ……例えて言うなら地獄の扉が開いたような気がした。悪夢はまだ終わらないのか? ひょっとしたら俺たちの交流はここからが始まりなのかもしれない。 ◇◇◇◇◇ エピローグへ
https://w.atwiki.jp/penpeeeen/pages/25.html
ハルヒ8ちゃんだおぉぉぉ(*´Д`) ハルヒ8 ブレイダー 88lv 僕のメインはハルヒちゃんだお(*´Д`) 皆ハルヒちゃんの事ハルちゃんって呼んでいただきたい←えw ぱみゅぱみゅ~ 近々BLOG作ります~♪
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/16.html
「ところでさ、あんた、9月の連休、何か予定ある?」 もはや恒例と化した感があるそれぞれの家で催される放課後勉強会(正確にはハルヒによる無料家庭教師)。 問題集に向かうのも1時間を超えれば多少の集中力の低化もやむを得ない訳であり、俺たちは予定より早めの休憩タイムに、和菓子とほうじ茶というしぶい間食をとっていた。その最中、冒頭のハルヒによる爆弾発言はなされた。 爆発していない? じゃあ不発弾か。 いやいや、昨今のハルヒの暴言装備はテクノロジーの粋を極めており、一見ゼム・クリップにしか見えない爆弾発言など、もはや日常茶飯事となっているのだ。 「な・ん・か、予定ある?」 俺が聞き落としたとか聞き漏らしたと、ハルヒのやつが思った訳ではないことは、発言の前三分の二を省略し、「な・ん・か」にアクセントを置いたことからも推察できる。 要は「あんたになんか予定があるわけないわ。あっても些細なこと、この絶対にして至上の団長命令の前には、トラヤのようかんの前のチロル・チョコも同然、取り上げるに値しないんだからね、つまりあんたの回答は考えるまでもなく決まっているの!『ありません』よ!、どう?」とコイツは言っているのだ。 「特にないな」 俺はできるだけそっけなく答えた。 ハルヒは一瞬「にかっ」とでも背景に描き文字を加えたいほどの笑みを浮かべたが、すぐに腕を組んで、その剛腕で笑顔ごと上機嫌を押し隠した。そして、 「そう」 とハルヒもできるかぎりの愛想のない相槌を打った。「ふーん」という気のない声をつければ完璧だっただろうね、きっと。 だけどな、ハルヒ、その太陽系数個を詰めこんだみたいな目から放たれる嬉々とした輝きは、25年後と17年後にベガとアルタイルのそれぞれで観測されるぞ、きっと。 「で、確認しときたいんだけど、あんたパスポート持ってる?」 なんの確認だかわかりはしない。この時の俺には、これが地雷の「信管」だと分かるはずもなかった。 いや、この程度が信管だというなら、世の平均値をかなり上回って穏当でないハルヒの全発言が、それに該当するだろう。あるいはハルヒの存在そのものが。 だから俺は事実をありのままに答えた。 「そんなもの、持ってない」それからこうも付け加えた。「何に要るんだ、そんなもの?」 ハルヒは、あーあんたがそこまでバカとは思わなかったわ、といった風に頭を横に振った。 「決まってるじゃない。海外旅行よ」 「そうか」 俺は、納得して、合点がいって、うなずいた。 「なるほど」 今のハルヒの発言に俺の予想を超えるものは含まれていない。俺の考えとハルヒの考えは、齟齬をきたしている恐れはあっても、言語レベルでは十分許容される範囲内だと考えていいだろう。 「そうじゃないかと思ったよ」 ところが、ハルヒはそこで目をそらし(なぜ?)、息を吐いてから、今までの口調とは打ってかわって、ぽつりとつぶやくように話しだした。 「あたし、お盆にあんたの田舎に付いてったでしょ」 「ああ」 そうだった。 ひょっとすると、あれはこの夏すべての出来事の最上位にランク・インするイベントだったかもしれん。 俺の思考はしばし想起モードに入り、甘酸っぱい感情を脳内に行き渡らせて、普段なら言わないような言葉を言語中枢に選ばせていた。 「あんな愛想のいいハルヒを見れるなら、毎月だって行きたいくらいだ」 「ばか。あれは外交モードよ。あんたに恥かかすわけにはいかないでしょ?」 「……」 「なんか、言いなさいよ」 そうだ、俺、なんか言えよ。何故、ここで詰まる? 言え、さあ、言いなさい。言うのよ、ヘレン、Water! 「……まさか、照れてるの?」 ぐっ。 「ほ、ほっとけ。話を進めろよ」 それじゃ、認めたことになるだろうが、俺。その、「照れている」ということを。 しかしハルヒにとっての本題はそこにはなかったらしく、ありがたいことに軽くスルーしてくれて、本題の方へ戻ってきた。 「まあいいわ。でね、お盆のは、あたしがあんたんちの家族旅行に割り込んだみたいな形だったでしょ?」 「うちは誰も気にしてないぞ。気遣いは無用だ」 ちなみに俺も気にしていない。親+妹のにやにや笑い以外については、な。 「気遣いという訳ではないけどね。なんでも『お返し』がしたいんだって」 「へ?」 誰が? 「うちの両親が」 「つまり、その」 「そう。涼宮家の家族旅行に、あんたを招待するわ、キョン」 「ちょっと待て、なんでそういうとこまで話が進む?」 そのまえに菓子折り持って挨拶とか、酒を組み交わすとか、殴りあっているうちに友情が芽生えるとか、何だかよくわからなくなってきたが、とにかく! なんかそういう下ごしらえとか心の準備運動とかがあるんじゃないのか、普通? 「別に進んでないわよ。それに……なんというか、あんた、うちの親に気に入られてるのよ。どういう訳だか」 「まったく、どういう訳なんだ、それ?」 「親父だけなら、あたしもなんとかするんだけどね。今回の首謀者は、母さんなのよ」 「まじか?」 「真剣と書いてマジ。あの二人が組んじゃったら、さすがにね」 「ちょっと待て。おまえ、さっきパスポートがどうのこうの、言ったよな?」 あれはこれと、つながっているのか? とすれば、どういうことだ? ああ、やっと俺にもわかるぞ、つまりだ。 「家族旅行って海外かよ!? って、まず俺の意思を聞けよ」 「無意味よ。あんたが拒否したって、地の果てまで追ってくるわよ、だって地球は丸いんだから」 って、なんというジャイアン? 「あんたをかばって一緒に逃げてもいいけど、逃げきれるかどうか。自信は正直ないわね」いや、そこでため息つかれてもな。 「じゃあ、明日は役所巡りね。さっさと作っとかないと、どこかのバカ親父が『キョンのパスポート作っちゃった』とか、言いだしかねないから」 「そんなの勝手に作れるものなのか?まずいだろ、いろいろと」 「まずいわよ。さっきのセリフの続きはこうよ。『ほら本物と見分けがつかないだろ』」 「おいおい」 「あたしも、あんたに前科がつくのは回避したいわよ。というわけで、明日役所に行くわよ!」 ハルヒは高らかにも厳かに、天井を(多分その上の夜空を)指差し、そう宣言した。 「楽しみだなあ、母さん」 「ほんと楽しそうですね、お父さん」 「そうとも。ナイス・アイデアだ、母さん」 「それで行き先は決まったんですか?」 「いつもの通り『暖かくて、物価が安くて、地元の人が親切でうるさくなくて、のんびりできるような国』と注文しておいた。明日中にはなんとかすると言ってたから、朝一番に行ってやろう」 「いつも大変ね、旅行代理店のその人。なんでお父さんの友達なんかやってるんですか?」 「なんでも俺に弱みがあるらしいな。俺の方はさっぱり覚えちゃいないんだが」 「そうでしょうとも」 「人にした親切と人に貸した金は忘れろ、というのが家訓なんだ」 「その家から勘当されたんでしたっけ?」 「父親が堅物でな。人生の岐路に立つ度に、おもしろい方へおもしろい方へと進んだら、いつのまにか勘当されてた。ありゃ横溝正史の小説なんかだと真っ先に殺されるタイプだぞ」 「映画だと、犯人はいつも一番ギャラが高い大物女優さんなのね」 「家族そろって海外なんて何年ぶりだろうな、母さん」 「ほんとね。お父さんは仕事で毎月どこかへ行ってるけど」 「ろくでもない場所へ、ろくでもない用向きばっかりだ」 「ハルが嫌がって、行かなくなったのね」 「こんな手があるとは思いつかなかった。さすが母さんだ」 「あら、すごい悪の党首みたいな言われ方」 「ほめてるんだぞ」 「行き先がわかったら電話くださいね。キョン君の家にご挨拶に行ってきますから」 「挨拶という名の交渉(ネゴシエーション)だな」 「というより支援(バックアップ)ですよ。お家の人に反対されたりしたら、ハルヒと板はさみでキョン君がかわいそうじゃないですか」 「そうとも。今回のミッションの鍵を握るのはあいつだからな」 我らが団長涼宮ハルヒの宣言は、それすなわち決定であり、しかも俺だけを巻き込むような企画の場合はほぼ100%の確率で実施されるという、ありがたくない実績がある。 今日も俺たちは、その実績にカウント1を積み上げる結果となった。 「母さん、ただいま。キョンもいるんだけど」 「おかえりなさい。キョン君、いらっしゃい」 「おじゃまします」 「あー、つかれたわ。来週にはパスポートとれるって」 「そう、よかったわ。キョン君、無理言ってごめんなさいね」 「いいえ。海外旅行なんて、むしろ何か、すみません」 「気にしないで。キョン君なしだと、そもそも成立しない企画だから」 「えーと、それはどういう?」 どういう意味だ?とハルヒに視線を送るが、いつもはこっちの頭蓋骨の後ろまでお見通しよ的に俺の目を覗き込んでくるくせに、こんな時に限って、こいつ目をそらせやがる。アイ・コンタクト失敗。結局、ハルヒ母が俺の質問を引き取る。 「そのうちわかるわ。今日は夕飯、食べて行ってね。ハル、ちょっとだけ手伝ってくれる?」 「いいけど、親父遅いんでしょ?そんなにつくるの?」 「仲間はずれにしちゃ、お父さん泣いちゃうから」 「俺も何か手伝います。お邪魔じゃなければ」 「残念。力仕事部門はもう終わっちゃったのよ。ハル、お部屋に案内してあげて。あ、その前に、キョン君、お家に電話しといた方がよくないかしら?」 「あ、そうですね。電話、お借りします」 「それじゃあ、ごちそうさまでした。失礼します。あ、送らなくて良いぞ、ハルヒ。今日は遅いし、親父さんもまだなんだ。母さんを家に一人にするな」 「え、でも……まあ、あんたがそういうんなら」 「ああ。明日な」 「うん。おやすみ」 「キョン君、帰ったの? 今日は送っていかなかったの?」 「母さん。ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」 「まあ、怖い」 「身に覚えがあるのかしら?」 「何のこと?」 「自分の家に電話した後、キョンの目が点滅してたんだけど?」 「ほんと、どうしたのかしらね?」 「母さん、理由、知ってるんでしょ? キョンの家で何言ったのよ?」 「うーん、差し障りのない、当たり障りのないことだけど。大切な息子さんを海外まで連れ出すんだから、ご挨拶くらいしておかないとね」 「だから、具体的には?」 「キョン君をお婿さんに下さい」 「なっ!」 「冗談ですよ」 「言って、良いことと、悪いことの!」 「はいはい。ただね、ハルの秘密をほんの少し、喋っちゃった」 「なっ!」 「『無理をお願いして申し訳ありません。キョン君に来て頂けないとうちの愚娘がどうしてもいかないと申しまして。私も体が弱くて、この先何度もこんな機会があるとは思えません、どうかどうか後生とお思いなら……』」 「母さん、乗ってるところ悪いけど、ヅカ(宝塚)入ってるし」 「あら、お父さんだわ」 「話の途中よ!」 「お父さん、ハルがいじめるんですよ」 「なに!ついに猿山の世代交代か?」 「ちがう!あれはオス猿でしょ!」 「じゃあ親殺しのオイディプスか。母さんが美しすぎるのがいかんのだ」 「ええい、やってなさい!」 次の日の朝、俺はいつものようにハルヒを迎えにいき、学校へ向かった。 なんとなしに切り出したのは、今回の旅行のことだった。 「ほんとにいいのか、飛行機代だけで?」 「いいんじゃない? 泊まるところはコテージで何人増えても追加料金はないんだし、あえて増要素があるとしたら食費ぐらいだけど。あんたの田舎でたらふく食べた覚えはあるけど、あたしお金払ったっけ?」 じいさん以下親戚連中は、ハルヒの健啖ぶりについて、最初は目を丸くして見つめ、最後には拍手までしてたな、確か。 「いや、しかしだな」 「そういうことはスポンサー(親父)か、ツアーコンダクター(母さん)に言ってちょうだい。ところで聞きたいことがあるんだけど」 「俺もだ」 「あんた、うちから自分の家に電話した時、なんか絶句してたけど?」 「あれは……」 「きょろきょろしない! 今、あたしとあんた、二人きりよ」 「つまり、あれだ。電話に出た途端、おふくろの口から出たのは『あんた、ハルヒちゃんになにしたの!?』」 「はあ?」 「さすがに、ちょっと、おまえの家では……な」 「……う、うん」 「で、ハルヒの母さんが、うちで何言って帰ったのか、気になってな」 「それよ! あたしもあの後、なんとかして聞き出そうとしたんだけど、途中で親父が帰って来てぐちゃぐちゃ。『母さんが美しすぎるのがいかんのだ』って、何よそれは?」 「まあ、確かにおまえの母さんは美人だが」 「へえ、ああいうのが好み? 残念ながら、人妻よ」 「知ってる」 「そりゃ、そうね」 「おまえもだ。っていうか、おまえだ」 「は?」 「だから……察しろ」 「は?は?は? 別に笑ってる訳じゃないわよ」 「俺の好みは、今、手をつないでる奴みたいなの、だ。……ハルヒ、その不思議な踊りみたいなの、やめろよ」 「ち、ちょっと、びっくりしただけよ!」 「それは少しへこむぞ」 「へこまなくたっていいわよ。むしろ胸をはりなさい!」 「ハルヒ、それは少し違うぞ」 そんなバカな話を欧米人なみのオーバーアクションで交わしながらも、学校へは余裕の時刻で着いた。いつのまに、こんなに早起きになったんだろうね、俺。 ハルヒと前と後の、いつもの席でいつものように座り、これまた、いつのものように突かれ、応答していたら、4時限目が終わり、一緒に弁当を食べて、午後の授業がいつのまにか終わり、そして放課後。 部室のドアを開けると、すでに長門と古泉が、いつもの定位置にいた。古泉は立ち上がって、顔を無駄に近づけてくる。 「少し、お話が。涼宮さんは今日は?」 「掃除当番だ。内緒話なら手短かにな」 「わかりました。中庭へ移動した方がよろしいでしょうね」 やれやれ。 古泉は、俺たちがしばらく中庭でいると長門にも告げ、俺たちは多分違う理由でため息をつきながら、部室棟を出た。 「涼宮さんと海外旅行へお出掛けになる件なんですが」 こいつのこういう不躾で不穏な物言いも今ではすっかりなれちまった。コーヒーを相手の顔めがけて吹き出す粗相はしないさ。 「目ざとい、というか、耳ざといな」 「いえ。教室で、ああも大声でご相談されると、いやでも耳に入ります」 「おまえの教室まで届く大声とは気付かなかった。……嫌なのか?」 「うわさ話くらいは普通に楽しみたいものです」 と言って、肩をすくめては首を振る。 「念のために言っておくが、家族旅行だぞ」 「それで本題なのですが、旅行を取りやめて頂く訳にはいきませんか?」 こいつ本気か? いつもの「涼宮さんが望んだことですから」はどうした? 「さあな。ヤリでも降って飛行機が運休になりもしないと無理なんじゃないか?」 「では、さっそくその準備に」 「どんな交換条件を用意するかは知らんが、長門に頼むのはやめとけよ。局所的な環境情報の改竄は、どうとか、言ってたぞ」 「では正攻法で、あなたを説得することにしましょう。機関の予測ではおよそ92%の確率で閉鎖空間が発生します」 「よかったな、エスパー。失業しなくて済みそうだぞ」 「ですが、あらかじめ分かっている有事なら、それを防ぐのも我々の仕事ですので。神人狩りはああ見えて危険な仕事なのです」 あれが安全に見える人間は、何かとてつもない不幸かトラウマかハードな現実と直面している奴だけだろう。自分のことを言っているんじゃないぞ、断じてな。 「旅行自体は楽しみに見えるがな」 ほぼ確実に閉鎖空間を発生させるほどのストレスか。何だろうな。あんまり考えたくないぞ。 「涼宮さんは、飛行機が大の苦手です」 って、おい。 「ご存じなかったのですか?」 ああ、さっぱりな。 「では、何故あなたが今回の旅行に呼ばれたかも?」 いや、それについては、やっと合点がいったよ。やれやれ。 「言ってもいいか?」 「ええ。あなたから何かご意見が頂けるならこの上ない喜びですよ」 「ハルヒは雷が大の苦手だ」 「ええ」 「そして、俺は良い雷避けのおまじないを知ってる」 「僕に言わせると」と古泉は表情を和らげて言った「あ、いえ、どうぞ先を続けてください」 「誰かさんが、俺をお守りがわりだと思っているなら、それでもいいさ。旅行へは行く。何よりあいつは楽しみにしている。機関の予想屋には、確率を計算し直させろ。俺が太鼓判を押したと伝えてな」 古泉は何故だか晴れやかな顔で立ち上がり、セリフと違って俺の方は何だかしぶしぶといった具合で腰を上げた。 「わかりました。あなたにすべてお任せします」ペテン師め。とは口には出さなかったが、俺は代わりに古泉にこう言った。 「土産を買ってきてやる。悲しみのニポポ人形とか、どうだ?」 「アイヌ語で『小さな木の子供』でしたか。網走土産だと記憶していますが、どちらへ行かれるのですか?」 「知らん。『暖かくて、物価が安くて、地元の人が親切でうるさくなくて、のんびりできるような国』だそうだ」 その2へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1829.html
今日は土曜日、一日中寝ていても怒られないわ明日も休みだわ最良の一日。 昼まで爆睡していたかったな。 何故過去形なのか知りたい方がおらっしゃるでしょう。 今俺はハルヒの命令でサッカーの試合に出ているのです。 元はハルヒだけが呼ばれていたらしいが一人が嫌なのか 例のごとく団長から招集がかかり、我がSOS団全員が参加することになってしまった。 ついでに地元サッカーチームなので途中参加はOKらしい、 ハルヒ「今日は絶対に勝つわよ!勝たなきゃ死刑だからね!」 キョン「別にいいだろ、俺はさっさと帰りたい訳だが・・・・」 ハルヒ「馬鹿言ってるんじゃないの!助っ人なんだから勝たなきゃ意味ないでしょ!」 野球の例があったので手っ取り早く長門に超能力を使ってもらい 俺達はアッサリ勝利することができた。 試合も終わったが俺は帰ることができなかった。 何故かって?それは・・・・・・ ハルヒ「肉やけたよ!」 というわけで俺達は勝利祝いとして地元サッカーチームの皆さんと バーベキュー大会に参加させてもらった。 たまにはこんなことがあってもいいよな。 ジダン「楽しんでますか?」 キョン「ジダンさん!」 ジダン「監督でいいですよ、皆さんもそう呼んでいますから」 ジダン「どうです?美味いですか?」 キョン「ええ、」 ジダン「ハルヒちゃんは、なんとなく奇跡を起こしてくれそうな気がするんです。」 監督、あながち間違ってないぜ ジダン「そこで時々チームに助っ人として参加してもらってるんですよ」 ジダン「実は彼女、ストーカーにあっているみたいなんです。」 キョン「えっ!?」 ジダン「皆さんには内緒にしておいたみたいなんですが、」 ハルヒにストーカーか・・・、物好きな奴がいるもんだな そういやハルヒだとすぐに俺達に助けみたいなのをだしそうなもんだが・・・ ジダン「彼女も女性ですよ、そんなこと言えるはずがないでしょう」 よかったなハルヒ、女扱いしてくれる人がいて ジダン「私はこのあいだ彼女がストーカーに追われて隠れて泣いているとこを見つけました。 その時彼女はずっと『・・・キョン・・・助けて・・・』って言ってましたよwww」 さっき食った肉が吐きそうになった。 まっさかハルヒがそんなことをいうはずがねーよ・・・な? ジダン「キョン君、ハルヒちゃんを守ってあげて下さいねwww」 監督、残念ながら俺はハルヒなんかに興味はない、・・・・多分 しかしハルヒの脅える姿、見てみたい気もするな・・・ 様々な謎?を残してバーベキュー大会は終了、SOS団も解散、 楽しいと言えば楽しかったし、どうせ家でだらけてたはずだし、 まぁたまにはいいかな、貴重な話も聞けたし、 不思議と俺の気分は晴れやかだった。 月曜日、珍しくハルヒが休んだ 火曜日、またハルヒが休んだ 水曜日、またハルヒが休んだ 木曜日、以下同文 国木田「涼宮さん、どうしたんだろう」 谷口「キョン、お前何か知らないのか?」 キョン「まったく、」 流石に一週間近く休まれるとこっちが調子狂う。 ハルヒの家は知らないし行ったら行ったで何か誤解されそうな気がするし、 長門にでも聞いてみるか・・・・・・ 放課後、部室に行くといつもどうりの長門と少し焦った感じの古泉がいた。 古泉「キョン君、大変です。ここ一週間、閉鎖空間が発生し続けています。」 キョン「ふーん」 古泉「他人事みたいですね、まぁいいです。 なにか原因を知りませんか?」 キョン「俺が知るわけないだろ、」 そういや、監督がなんか話てたっけな・・・・ ストーカー・・・・・・ あ、ストーカーね。大変だなぁ。 と言っている場合ではない。 古泉「なるほど、では早くストーカー事件をを解決しないと 僕達も大変なんですよ」。 いわれなくてもわかっている。 しかしどうしたものかね・・・、携帯も繋がらないし 金曜日、学校に一人のいい男がやってきた。 雷電「そこの君、涼宮ハルヒさんを知らないかい?」 なんだこいつ、なんかイライラする これは嫌悪感ってやつかな、 教えたらなにか嫌なことがおこりそうな・・・・ キョン「いません。」 雷電「本当に?」 キョン「本当に」 何か隠しているんじゃないかって目で見られているが事実なんだから仕方ない。 雷電「んっふっふ じゃあまた伺いますよ」 なんだったんだあいつ・・・・・・ 来週の月曜日、やっぱりハルヒは・・・・・・いた。 流石に一週間休んでいたせいか、理由でも聞いているのだろう。 女子が集まっていた。 ハルヒ「別に何ともないわよ、ただの風邪よ」 とてもそうは見えなかったな、 心配させたくないのか説明するのが面倒くさいのか。多分後者だな。 放課後、部室にやってきた俺とハルヒ キョン「ハルヒ、いったい何があったんだ、教えてくれないか?」 ハルヒ「あんたには関係ないわよ!ほっといてちょうだい!」 キョン「ほっとけるかよ!俺はお前が心配なんだよ! 俺じゃ嫌なのか!俺には助けてほしくないのか!?」 ハルヒ「キョン・・・・・・」 ハルヒ「私、誰かにつけられてるの・・・・ 毎日毎日・・・もう・・・・いや・・・」 キョン「ハルヒ・・・・・・」 俺は始めてハルヒの泣き顔を見た こんなハルヒは見たくない。俺が、ハルヒを守る、ハルヒの笑顔を取り戻すんだ・・・ 下校時間、俺はハルヒが見えるギリギリの位置から監視することにした。 ハルヒはそばにいてほしいと言っていたが、 犯人を捕まえるために離れて行くことにする。 急にハルヒの様子がおかしくなる。 もしかして・・・・・・ あの服装・・・北高のサッカー部の奴か? 肌も黒い・・・だいぶしぼれたか・・・? 犯人の目星をつけていると、突然ストーカーが走り出した! ハルヒは路地裏に逃げた、馬鹿!その方向は追い詰められるのに! 5分ぐらい走ってから、泣いているハルヒを発見した。 いつもの姿からは想像できない顔だ。 キョン「ハルヒ・・・・・・」 俺は何を思ったのだろうか、 ハルヒを抱きしめた。 キョン「ハルヒ・・・・・・ごめん!」 ハルヒ「う・・・うわぁ・・・嫌!嫌!いやあああああああああ!」 えっ?ハルヒ、どうした?俺はただハルヒを・・・ 急にハルヒは嘔吐しはじめた、なんだ、俺、何か・・・・・・ ハルヒ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 そう言った後、ハルヒは気を失ってしまった・・・ 気を取り戻したハルヒに聞いてみると、 ストーカーに抱きつかれたトラウマからきた行動らしい。 そしてハルヒはハンカチを渡してくれた、 俺のでも、ハルヒのでもない、犯人のものだ、 一応長門に確認してもらうと、俺の、目星をつけている人物といろいろなことが一致した。 最初から長門に聞いておけば良かったな・・・・・・ そうそう、犯人の名前は 三 都 主 ア レ サ ン ド ロ 俺はハルヒを救う。簡単に。永遠に サントスを抹殺する。 そのためには方法がいくらでもあるそれこそ無限 の手段がある皮肉にもハルヒを救うため手段のほ とんどに資本を必要とするがあの男を抹殺する方 法のほとんどにまったくと言っていいほどの資本 はかからない最低限の投下資本であの男は抹殺さ れるのだ最低限の資本と釣り合う程度それがあの 男の命の重さの程度だったのだ凶器は金属バット でも拾ってあの男の家を襲う推定所要時間は25 分刺し違えるつもりなら秒にしてわずか1500 秒以内に遂行できるのだあの男がいかに生かされ ているかがわかる俺が決意してわずか1500秒 でこの世から追放されてしまう程度の存在なのだ 消えろ消えてしまえ そして死んでしまえッ! ハルヒの心を引き裂いたように 貴様の心臓を引き裂いてやるッ! 償えその血をもってッ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお と、ノリで言ってみたものの、バットで殺害した後は、どうしよう 長門に頼もう。 あとは山中にでも埋めて終わり。 これで、すべてが終わる! サントスは毎日トレーニングのため近くの山までランニングをしていると情報を得た。 好都合だ。まるで自分を殺してもらう為にランニングをしているようだ。 当日、俺と長門は山中で待ち伏せすることにした。 今は一月と寒い。長門も心なしか震えているように見えた。 長門「・・・・・・来た」 見間違いなんてあってはならない。 よく見ろ、あれは・・・・・・ サントスだ! 犯人を見つけた、 真っ先に体当たり。 体勢を崩したサントスを 俺は・・・・・・ 脳内の全不要情報を廃棄 目の前の男の殺害を最優先 執行、執行、執行 ハルヒを傷付けた。 逃がすものか。 そもそも貴様はどこから湧いてきたんだ? 貴様こそが異端間違い世界の支障 貴様は俺が抹消する。 終われ、終われ、 死に絶えろ!!! 死体の処理は長門に協力してもらった。 サントスの足跡、血痕、俺達に繋がる汗、指紋、凶器、 死体は深い穴の中にいれた。 これで、終わった。 終わったぞクソッタレ!! もう夜だ・・・・・・ 後はすべてなかったかのように、帰るだけか、 そうだ、帰りに喫茶店にでも行くか・・・・・・ 古泉「月の綺麗な夜だねキョンタン!」 クソッ、やっと帰ろうと思ったときに邪魔がッ! 古泉「長門さんと夜にどこに行っていたんですか?まさかラブh」 キョン「それはお前もだろ」 古泉「それはそうですね、そうだ、送って帰りますよ、もちろん長門さんも」 すると例のように見たことある黒いタクシーがやって来た。 家まで結構あるし、何かあるような気がするが、乗せてもらうとするか・・・・・・ 古泉は長門を先に下ろし、 今は古泉とタクシーの運転手の3人となった。 移動中、古泉がやたらとひっついてきやがる、 邪魔だ 古泉「何言ってるのキョンターン、せっかく二人っきりになれたのにぃ」 運転手がいるだろ 古泉「あの人はいてもいないようなもんだし~」 まぁそうだったな 古泉「ところでキョンたん~」 「死体、上手に埋められた・・・?」 なんで どうして こいつ どうする 殺してしまうか!? 古泉「ボケもツッコミも無いのかい?」 キョン「・・・・・・は?」 古泉「悲しいよキョンタン、いつもならそこでツッコミが入るのに・・・・・・」 冗談だったのか・・・・・・? クソ 最後の最後で・・・ なんという不運 キョン「すまんな古泉、送ってもらって」 古泉「僕とあなたは今夜、出会わなかった。」 は? 古泉「僕とあなたは今夜、出会わなかった。」 キョン「それでいいなら・・・そういうことでいいが・・・」 古泉「そうだよね、あなたにとってもその方がいいでしょう」 キョン「どうして、そう思うんだ?」 古泉「いちいちうるさいな、それくらい自分で考えられないのか?」 生かしておくべきではなかった・・・・・・ でも、遅い・・・・・ 手遅れだ・・・・ 事故にあえ、死ね、死んでしまえ 安心しろ、あいつは死ぬ、 あいつにふさわしい、無惨な最後を・・・ 公園で会ったいい男に、うしろから掘られてそのまま腸まで突き刺さって、死ね せっかくかっこよく決めたのに、死に方がギャグじゃねーか、 ハハハハ・・・・・・ ハハハ・・・・・・ ハハ・・・・・・ 朝? もう、3時か・・・・・・ 3時!? 流石にやばすぎるぞ。 いつもは妹が起こしに・・・ そういや修学旅行だっけ まぁいいや、休んだほうがいいだろうが・・・・・・ ハルヒ・・・・・・ 行くか・・・・・・ みんな・・・部活してる・・・ サッカー部・・・・・ 三都主・・・・・・ その時、俺は信じられないものを見た。 嘘だ、嘘だ、嘘だ なんで、サントスが生きているんだ? 俺は真っ先に部室に向かった。 キョン「長門!どうしたんだ!サントスが!」 長門「・・・・・・」 ハルヒ「・・・・・・」 あ・・・・・・、ハル・・・ヒ ハルヒ「サントスが・・・・・・どうかしたの・・・?」 キョン「いや・・・なんでも・・・ない」 俺は長門を何故か開放されている屋上へ連れだした。 キョン「長門!どういうことだ!なんでサントスが生きているんだ!?」 長門「わからない。予測不可能な事が起きた。」 まさか・・・・ キョン「俺は・・・ちゃんとサントスを・・・・殺したよな?」 長門「確認している。あなたは確かに執行した。」 じゃあ、何故・・・・・・? 放課後、ハルヒを家に送った後 俺は長門と共にサントスを埋めた場所に向かった。 キョン「ここだよな?」 長門「間違いない」 流石に土を掘るのは男の仕事だ。 ついでに前も掘るのは自分でした。 間違いない、この感触・・・・・・ キョン「長門、暗くなってきたから、明かりをつけてくれ」 光がさした。そして、招かざる客も発見した。 スネーク「待たせたなキョン、月の綺麗な夜だ」 キョン「ソリッド・スネーク!」 スネーク「雷電、ここなのか?」 雷電「ああ、ここだ」 なんでここに奴らが? なんの用だよ! スネーク「気にしなくていい、ダンボールだとでも思えばいい」 キョン「気にするな!?」 スネーク「ああ、こんな時間に、真剣に作業してるんだ 邪魔する必要はないからな」 キョン「遠慮します。」 帰ろうとしたところ、雷電と名乗る奴に俺は腕を捕まれ、 水溜まりに叩き付けられた。 雷電「続けるんだ。」クソッ!なんで俺がこんな目に・・・・・・ おかしい、土が固くなってきた。 こんな深く掘ったのかも怪しい。 スネーク「どうやらスタミナ切れらしいな、雷電」 俺はまた放り投げられ、雷電が掘り始めた。 雷電「スネーク、ちょっと見てくれ」 スネーク「どうした?」 雷電「排水管だ、そしてもう手応えがない。 これより深いってことはないだろう」 スネーク「掘り返す場所を間違えた、とか?」 雷電「いや、最初は掘り返す感触だった。」スネーク「なんだそりゃ、無駄足ということか?」 そういえばサントスは生きているんだった。 死体が出てこないのも普通・・・・・・か? 俺は何事もなかったかのように帰る二人を、 ただ、座ったまま眺めていた。 もう、手段などどうでもいい どうせ狂った世界なんだ 俺は処分したはずのバットを手にとった。 行こう、奴の、サッカー部に・・・・・・ なにか音がする。 風呂か・・・・・・ 北高には風呂があったのか 気になる。開けてみよう。 やはり狂った世界だった。 熱湯の風呂には、何故か彼女がいた。 キョン「ハルヒ!!!!!!!!!!!!!!!!」 ハルヒ「キョ・・・・・・ン!?どうし・・・・・て?」 キョン「そんなことより、すぐ冷やしてやるからな!」 俺はハルヒを熱湯から出して、部室にあった氷をもってきた。勃起している暇などない。 ハルヒ「キョン、ありがと」 キョン「それより、なんでサッカー部になんかいたんだ?」 ハルヒ「サントスに、連れて来られて・・・・」 あの野郎!殺してやる!必ず! ハルヒ「それよりキョン・・・いつまでこんな格好にしておく気?」 キョン「あ、悪い」 ハルヒ「もぅ・・・ SOS団の部室に行きましょう。コスプレ衣装で我慢するわ」 よくよく考えるとこれはセクロスフラグなんじゃね?と思った。 それだけ 幸いサッカー部から文芸部まで誰一人と会わなかった。 バスタオルの女ってだけでヤバいのに、 一緒に歩いているとなんかしたのかと誤解されるからな。 部室を開ける俺、中にはこれまた信じられない光景が映った。 長門が・・・頭から血を出して・・・死んでいる ハルヒ「嫌あああああああああユキイイイイイィィィィィィィ!!!!!」 まただ!なんで!なんでなんだよ! ハルヒ「・・・・・・ヒッ!」 急にハルヒが脅えた声をだす。 隠しておいたバットがさらけてしまった ハルヒ「ひ・・・人殺し!」 キョン「違う!俺じゃない!話を聞いてくれ!」 ハルヒ「誰が信じるのよ!あんたが!あんたがっ! もしかして・・・古泉くんもあなたが・・・・・・?」 キョン「古泉が・・・・・どうかしたのか?」 ハルヒ「公園で死んでいたのよ!肛門からバットを突き刺された変死で!」 えっ?それって・・・俺が望んだ死に方と・・・同じ? 古泉が・・・死んだ? しかも俺が望んだ死に方で? もしかして、スネークと雷電も? 説明しておくとあの時二人が帰った後、 俺は二人の死を望んだ。 スネークは変な二足歩行兵器に踏まれて死ねばいい。 雷電はウホッ大佐に掘られて死ねばいい。 と・・・・・・ ハルヒ「来ないで!人殺し!」 回想に浸っている場合じゃない。 ハルヒは立ち尽くす俺を突き飛ばし、屋上に逃げていった。 屋上についた。 ハルヒは隅の方でうずくまっている ハルヒ「来ないで!来ないで!」 キョン「違う!俺は、古泉も長門も!殺してなんかいない!」 ハルヒ「じゃあ!そのバットは何なのよ!」キョン「・・・・・・っこれは・・・・・・」 ハルヒ「ほら!キョンは殺人鬼じゃないの! どうしてよ! いままで一緒に、私と・・・・・・」 キョン「ハルヒ・・・・・・ 俺には、わからない、 でも、これだけは・・・・・・ 長門と古泉を殺したのは俺じゃない!」 ハルヒ「どうやって信じればいいの!? そのバットも、納得のいく説明ができるの!?」 キョン「バットが、怖いのか?なら、捨てるから・・・・・・」 俺はバットを屋上から投げ捨てた。 下に人がいたかもしれないが、知らん。 キョン「ハルヒ、もう怖くないだろ・・・? 話を聞いてくれるか?」 ハルヒは立ち上がり、 ゆっくりと・・・俺の方に向かってくる。 ハルヒ「ううん、キョンは悪くないの・・・・・・ 悪いのは、全部私・・・・・・ 私が、退屈しないことが起きてって望んだから・・・・・・」 忘れていたが、ハルヒにはそんな能力があったな、 もしかして、この事件の原因は・・・・・・ キョン「ハルヒ・・・・・・」 ハルヒ「キョン・・・・・・」 キョン「ハルヒ、実は俺、ポニーテール萌えなんだ」 ハルヒ「何!突然!?」 キョン「いつぞやのお前のポニーテールは、反則なほどに似合っていたぞ」 ハルヒ「何!?ちょっと!」 忘れたくなるような出来事を、俺はまったく違う状況でおこなっている。 まさか二回もハルヒとキスをするとは思わなかった。 ハルヒは何も言わずに、俺の目の前にいただろう。 世界が、変わっていく やはりここは閉鎖空間だったのか・・・・・・ これで・・・この狂った世界とオサラバだ・・・ フト気付いたが、何処からが閉鎖空間だったのだろう。 いろいろと思考を凝らしている内に・・・俺は・・・・・・・・・・・・ 気付くと、タクシーの中にいた。 見回すと、死んだはずの長門と古泉、 まったく、何があったかさっぱりわからん 古泉「ようやくおめざめですか? どうでした?3度目の閉鎖空間旅行は?」 キョン「お前・・・、知ってたんならもっと早く教えろよ」 古泉「教えに行ったのですよ、 でも侵入した瞬間、謎のいい男に掘られてしまいまして・・・・・ すぐに脱出したわけです。」 キョン「じゃあ、長門は・・・・・・」 長門「今回の空間は、私にも潜入できた。 でも、侵入した瞬間、すぐに意識が途切れてしまった。」 と、いうことは、閉鎖空間で見た長門は、本物の長門だったのか? キョン「ったく・・・・ ハルヒも厄介なことしてくれるぜ」 溜息と苦笑が同時にでた。 なにせ今回はハルヒの裸を見たし、いいことにしておこう。 そういやハルヒの身体って結構いい身体してたな・・・・・・ くだらないことを考えていると、古泉がいつもの笑顔で、くだらないギャグを言いやがった。 「ハルヒって・・・・・・誰ですか・・・・・・?」 ハハハ、何言ってやがる。 ハルヒだよ、涼宮ハルヒ。 この事件の原因の閉鎖空間を発生させて お前が神と崇めている奴じゃないか 古泉「今回の原因はあなたじゃないですか 時空改変能力をもっているのもあなたですよ」 what?は?え?何? キョン「長門、古泉のギャグに笑ってやれよ」 長門「冗談ではない。古泉一樹が話していることは、すべて事実」 本当か長門?それじゃあ涼宮ハルヒは・・・・・・ 長門「存在しない。あなたが造り出した、空想の人間」 ああ、なんだそうか、 じゃあ、涼宮ハルヒと過ごした、いままでは・・・・・・夢と同じってことか・・・・・・ うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ 「!! キョン君!どうしたんですか!キョン君!」 もう・・・どうでもいい・・・ 「長門さん!何かキョン君の意識を戻す方法は?」 俺には世界を変える能力があるんだよな・・・・・・ なら・・・新しい世界で・・・・ ハルヒと・・・一緒に・・・・・・ 「危ない。世界を新しく想像しようとしている。」 「そんな!また変えられたら、もう!」 「大丈夫、私がなんとかする。」 長門・・・・やめてくれ 俺は・・・・この世界には未練はない・・・・ 新しい・・・世界で・・・・・ 俺の世界を変える能力は消えた。 俺は、生きる気力を無くした。 もう、どうなってもいい。 あの世には、ハルヒみたいな奴がいるといいな 「駄目よ!死ぬなんて言ったら!」 この声は・・・・ハル・・・・・・ 古泉「僕です。さぁキョンタン!アナルギアをしましょう!」 今の俺には世界を変える能力はなくなったんだよな でも、ここでお前の存在を消してみるよ 俺 如 キ ニ 祟 リ 殺 サ レ ル ナ ヨ ? ひぐらしのなかないハルヒ 祟犯し編 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4203.html
プロローグ ある日の午前十一時半、倦怠生活に身をやつしている身分の俺には一日のうちでもっとも夢膨らむ楽しい時間。このところ妙に開放感を感じているのは、きっと束縛感の塊のようなやつが俺から少なくとも十メートル半径にいないからだろう。精神衛生的にも胃腸の機能的にも正常らしい俺は、さて今日はなにを食おうかとあれこれ思案していた。その矢先に机の上の内線が鳴った。無視して昼飯に出かけるにはまだ二十分ほど早いので仕方なく受話器を取ると総務部からの転送だった。お客様からお電話よ、と先輩のお姉さまがおっしゃった。俺を名指しで外線?先物取引のセールスとかじゃないだろうな。 「キョン、今日お昼ご飯おごりなさい」 あいつ俺に電話するのに代表にかけやがったのか。 「職場に直接かけてくんな。携帯にメールでもすりゃいいだろ」 「いいじゃないの。あんたがどんな人たちと働いてるか知りたかったのよ」 俺の周辺に涼宮教を広めないでくれ。 「俺とお前の職場じゃ昼飯を食うには離れすぎてるだろ」 「じゃあ、北口駅前でね」 そう言っていきなり切りやがった。相変わらずこっちの都合なんてないんだよなぁこいつは。 「すいません、外で昼飯食って打ち合わせに直行します。三時ごろ戻ります」 俺は戻りが遅れることを予想して上司に言った。いちおう取引先に会うカモフラージュのためにカバンを抱えて出た。中身は新聞しか入ってないんだが。 「キョン!こっちよこっち」 北口駅を出るとハルヒが大声で叫びながらハンドバッグを振り回していた。俺は横を向いて他人のフリ、他人のフリ。 「恥ずかしいなまったく」 「この近くにイタリア人がやってるフランス風ニカラグア料理の店が開いたのよ」 どんな料理だそれは。 ハルヒにつれて行かれた開店したばかりという瀟洒な料理店は意外に混んでいた。ニカラグアがどんな国かは知らないが、まあ昼時だからそれなりに客も入っているようだ。そのへんのOLが着る地味なフォーマルスーツに身を包んだハルヒはズカズカと店の中に入り込み、ウェイターが案内しようとするのも構わずいちばん見晴らしのよさそうな窓際の丸テーブルにどんと腰をおろした。 「あーあ。ほんと、退屈」 ハルヒがこれを言い出すのは危険信号だ。俺はパブロフの条件反射的に身構えた。何も言わない、何も言うまいぞ。 「あんたさぁ、」 腕を組んでテーブルに伏したままハルヒが呟いた。 「なんだ」 「仕事、楽しい?」 キター!!これはまずい展開だぞ。話の行方を考えて返事をしなくては。ハルヒがこういう話の振り方をするとき、不用意な俺の発言でとんでもない事件に巻き込まれることが歴史を通じて証明されている。 「半年だし、まあやっとペースに乗ったところって感じかな」 「あたしは退屈。こんな生活が退職するまで続くかと思うと憂鬱になるわ」 「定年までいることはないさ。結婚するとか、転職するとか、資格を取ってキャリアを重ねるとか、いろいろあるだろ」 「あんた、有希と結婚したとして、こんな生活が延々続くことに耐えられるの?」 「生活は安定するさ」 いや、今なんか問題発言がなかったかハルヒ。 「あたしは耐えられないわ。人に使われて歯車を演じるだけの人生なんて」 人、それを“歯車にさえなれない”と表現するんだが。そんなことをハルヒに向かって言ったら牙をむいて頭ごと食われそうなのでやめとこう。 「貯金して海外旅行でも行ったらどうだ」 「毎年それでリフレッシュするわけ?帰ってきて自分が飼われてるのを実感するだけよ」 「うーん……。お前を満足させられる会社ってのが、そもそもあるのかどうか分からん」 それ以上会話が続かず、俺たちはしばらく黙っていた。ハルヒは眠そうにニカラグア産コーヒーをすすった。もしかしたら俺たちはこのまま、一生社会のしがらみの流れに身を任せて生きていくしかないんじゃないか。そう思わせるような雰囲気が、俺とハルヒの半径二メートルくらいを充たした。だがまあ、それも悪くはないと思う。今までハルヒに付き合っていろいろやってきたが、もうお遊びは終わりだ。 俺は倦怠感に身をゆだね、持ってきた新聞を広げて壁を作った。ゆっくりしよう、どうせ戻りは三時だし。 「気がついた!」 ハルヒの声が店内に響き渡わたり、俺は新聞を落とした。突然俺のネクタイを締め上げた。ずいぶん前に似たようなシーンに遭遇した覚えがあるぞ。 「く、苦しい離せ」 「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら」 「何に気づいたんだ」 「自分で作ればいいのよ!」 「なにをだ」 「会社よ会社」 うわ、まじ、やめて。ハルヒは携帯電話に向かって怒鳴った。 「全員集合!」 1章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5823.html
角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった ハルヒと朝比奈さんが …… 血まみれで伏しているというのは 一体どういう冗談だ…? 気付くと俺は二人の前にいた 考えるよりも先に体が動いてしまったらしい 「大丈夫かよ!?おい!?!しっかりしろ!!!!!」 「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」 「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」 「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」 …… え? じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ? …… 全部…朝比奈さんの血…… …!? 「う…ぅ、ぅぅ……!」 悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった 「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」 「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」 「朝比奈さん!!?」 「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」 理解した 彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は 『ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?』 つい先ほどの彼女の言葉が頭でこだまする 朝比奈さん…あなたは…そこまで思い悩んでいたんですか…!? 「あ…あたしのせいだ…!!あたしがボーっとして動こうとしなかったからみくるちゃんが…!! あたしのせい…あたしのせいでみくるちゃんが…っ!!いやあああああああああああああ!!!!」 頭を抱え絶叫しだすハルヒ 「よせ!!ハル」 言いかけてやめた。ふと、気付いたからだ…俺の横へと立っている人物の存在に。 「あなたは涼宮ハルヒを連れ、ただちにこの場を立ち去るべき。周囲の急激な悪化により 彼女の精神は極限状態。これ以上の錯乱は彼女の自我そのものを崩壊させる。 神としての記憶を覚醒しかねない極めて危険な状況。」 長門… …… …!! 今の俺に長門の声は届かなかった 「長門…!!お前…!!」 気でも狂ったのか、俺は長門に掴みかかっていた。 「…銃で必死に迎撃してくれてた古泉と違って…お前は一体何をしていた!? お前なら…!!今の攻撃からみんなを守ることなど造作もなかったはずだろう!? …なぜそれをしなかった!?答えろよ長門ッ!!!!答え」 頬に鈍い痛みが走った 俺は古泉に殴られた 「てめえ…!何しやがる!?」 「あなたこそ…こんなときに何をやってるんです!?涼宮さんを連れてただちに逃げろと… 今長門さんに言われたばかりでしょう!?どうしてそれに従おうとしないんです!?」 「お前…!!!今にも死にそうな朝比奈さんは無視か!?それに長門は…!」 「おいおいおい、九曜さん。ちょっとやりすぎじゃ?死人がでそうな状況なんだが。」 「…関係のない人に重傷を負わせてしまったぶん多少の罪悪感はありますが…ま、仕方ないですね。 ある意味当然の報いですよ。なんせ、私たちは問答無用で先ほど殺られそうになったわけですから。」 「-----------身の程を-------------------------------知るべき」 炎上した隣家の方角から歩いてくる… 不快な言葉を発する三人組が… …… そして、俺はこいつらの顔を知っている 未来人藤原 超能力者橘京子 天蓋領域周防九曜 …藤原。やっぱりてめえらの仕業だったわけか…! 「…長門さんと同程度か、それ以上の力を有する周防九曜…。天蓋領域という名の化け物に 彼女は…長門さんは情報操作をかけられ、一切の身動きがとれない状態でした。」 !! 「それでも彼女は抑圧されてもなお、力を行使し被害を最小限にとどめました… 朝比奈さんを助けることが叶わなかったのは…彼女の力が不完全だったためです…。 もちろん、僕の力量不足でもありますがね…。逆に、その不完全な力さえもなければ今頃僕も、 そしてあなたもタダではいられなかったでしょう。最悪の場合死んでいたかもしれません。」 …ッ! …よくよく考えてみれば、長門や古泉が死に物狂いで頑張ってる中、俺は何をしていた?? 自分を守ることで精一杯だったじゃないか…!?いくらハルヒと朝比奈さんとに 距離があったとはいえ…、、、、そんな俺に、長門を批判できる資格なんかない…!!! 「長門…俺はお前にひどいことを…!本当に申し訳ない!この通りだ…!」 俺は長門に…誠意をもって謝罪した。 「…私が周防九曜に対し後れを取ったのは事実。だから、あなたが謝ることは何一つない。」 「しかし…!」 「私のことはどうでもいい。一刻も早く涼宮ハルヒを連れてここから立ち去るべき。」 …さっきも言われたな。頭に血が上ってたが、確かにそんな覚えがある。 …… ああ、わかってるさ。そうせねばならないほど窮した事態だってことは だが 「朝比奈さんはどうすんだ!!?重体の彼女を放置して、俺とハルヒだけ逃げろってのか!!?」 「…朝比奈みくるは、これから私が全力を尽くして治療にあたる。」 「!確かにお前にならそれが可能だな…だが、あいつらの相手はどうすんだ!? お前が治療に専念する間……、、!!まさか古泉一人に戦わせるつもりか!?無茶だ…! 相手にはあの天蓋領域だって」 「…幸か不幸か、涼宮さんの重度の乱心により…この場は閉鎖空間と化しつつあります。 となれば、僕も超能力者として…本来の力を存分に行使できるようになります。」 古泉… 「わかってんのか!?それでも1対3には変わりねーんだぞ!?」 「…涼宮さんにもしものことがあれば世界は終わりです。あなたもそれは十分承知のはず。」 「しかし…!」 「…以前ファミレスにてみんなと誓ったではありませんか。我々は協力して…みんなで涼宮さんを守る!…とね。」 …こいつは、自分の死を覚悟しているのか?仲間を守るために… …… 長門も同様にそうだろう。 朝比奈さんにしてもそうだ、命を擲ってでもハルヒを守ろうとした。 みんな覚悟を見せつけている 絶対に3人の覚悟は無駄にできない!!!!なら、俺にできることは一つ 「ハルヒ!来い!」 強引にでもハルヒの手を握り、連れて行こうとする俺。 「嫌!!放してよ!!!!放して!!!!みくるちゃんが!!!!! みくるちゃんがああああああああああああッ!!!!!!」 ハルヒもハルヒで相当つらいんだろう…気持ちはわかる。だが、今は我慢するんだ…! みんなの意志を…覚悟を…どうか酌みとってやってくれ!!! そして…みんな… どうか死なないでくれ!!!! 俺は3人に背を向け、ハルヒとともに走りだした。 「…はん、ようやくお喋りは終了か。じゃ、とっととそこをどいてもらおうか。計画に支障が出る。」 「その先にいるターゲットに私たちは用があるんで。早くしないと逃げられちゃいますしね。 それに、閉鎖空間と化したこの場で猛威を揮えるのは…決してあなただけではないってことも どうかお忘れずに。だって、私も同様に超能力者なんですから。」 「それくらい承知の上です。それでも、あなた方が何を言おうと僕はここを通しません…!」 「古泉一樹…朝比奈みくるの治癒がもう少しで終わる。 そのときまで、どうか耐えしのいでほしい。終わり次第、私も参戦させていただく。」 「それは頼もしいですね。ぜひともお願いします。」 …… 「一応忠告はしてあげたんですけど。じゃあ、仕方ありませんね。」 「結局こうなるのか。面倒なヤツらだ…。」 「---------邪魔」 「「はぁ…はぁ…はあ!」」 一体どれくらい走ったのだろうか…、俺たちはすでに息をきらしてしまっている。 行く宛てもなく…ただただ走り続けた。藤原たちから離れることだけを考え…ただただ走り続けた。 轟音爆音が鳴り響く 火の手が上がっている …俺たちが先ほどまでいた場所からだ。 …… ところで、俺にはさっきから妙な違和感がある。市街地を走りぬけていて気付いたのだが… 人一人歩いていない、というのはどういうわけだ?確かに、時刻は夜の10時をとうに過ぎてしまっている。 ゆえに、人通りが少ないのは理解できる。だが、人一人見当たらないのはどう考えたっておかしい。 …これも長門、ないしは周防九曜の情報操作に起因したものなのだろうか? それともさっき古泉が言っていたように、この世界が閉鎖空間と化しつつあるから…? っ! ふとハルヒの手が放れる。酷く塞ぎ込み、その場にしゃがみこむハルヒ。 「もう…あたし…、走れない…!」 「…そうだな…随分走ったし、ちょっと休憩するか。」 「…ねえキョン」 「何だ?」 「そもそもさ…何であたしたちこんな必死になって走ってんの…??」 「……」 「さっきまでさぁ…あたしたちお菓子とか食べながらみんなで騒いでたじゃないのよぉ…!? あれは一体何だったの!!?夢!?どうして…こんなことになってるの…!!?」 「……ハルヒ…」 「この状況は一体何よ!??家が吹き飛ぶわ、破片が飛び交うわ…そのせいでみくるちゃんが…!!」 …ハルヒの疲弊は、どうやら単なる息切れによるものだけではないらしい。 「ち、違う…!!あたし…あたしのせいでみくるちゃんが!!みくるちゃんを助けないと!!」 「落ち着け!!落ち着くんだハルヒ!!気持ちはわかる!!わかるから…どうか落ち着いてくれ!!」 「嫌ぁ…!放して…!みくるちゃんが…みくるちゃんがぁ…!!」 ……、 最悪の状況と言っていい。俺は…どうすりゃいいんだ? 極限状態なまでに錯乱した…今のハルヒに一体どんな声が届くってんだ…?仮にハルヒの立場だったとして、 今頃俺はどうしていただろうか?発狂していたのだろうか?だとして、そんな半狂乱な俺を… 俺はどうすれば救ってやれる??何をすれば救ってやれる!? その瞬間だった 「あ…、ああっ…、……」 卒倒するハルヒ …… …ハル…ヒ? 「ハルヒ!?おいしっかりしろ!!!!大丈夫か!!?ハル」 !? 何だこの揺れは…?地震…??規模こそ小さいが、一昨日見た夢を思い出さずにはいられなかった… …… …冗談がすぎるぜ…世界が滅ぶのは12月23日の段取りだったはず… 今日はまだ12月1日だぞ…!?今日で…終わるのか?何もかも…!? 「今のハルヒの失神は…、まさか!覚醒しちまったのか!?」 …何なんだこの展開は…??ここまで頑張ってきたのに…頑張ってきたってのに、 全部水の泡で終わるのか?そんな…そんなこと…ッ! しかし いくら威勢を張ったところで、もはやどうしようもないことには変わりない。 ここまで【絶望的】という言葉が似つかわしい状況もない。 …… とりあえず、地震は収まったようだが… 俺が放心状態であることに、変わりはなかった… 「た、大変!!涼宮さん…その様子だと、神としての記憶を取り戻してしまったんですね…!」 はて、この場には俺とハルヒしかいないはず。ついに俺も幻聴が聞こえるなまでに廃物と化してしまったか。 「ふう…あなた達のこと探したんですよ…って、キョン君聞こえてますか…?大丈夫ですか!?」 !! 「あ、あなたは…」 「よかった…あなたまでおかしくなってたら、それこそ終わりだったわ…!」 「朝比奈さん!!」 いつしかお会いした大人朝比奈さんが…俺の目の前に立っている。 光明が射すとはこういうことを言うのだろうか? 例えるならば WW2独ソ戦にて、モスクワ陥落を【冬将軍到来】により間一髪のところで防いだソ連。 池田屋事件にて、維新志士らにによる窮地を別動隊の【土方歳三ら】に助けられた近藤勇。 日露戦争にて、物資・国力ともに限界だったところを【敵国の革命運動】により難を逃れた日本。 関ヶ原の合戦にて、数による劣勢を【西軍小早川秀明の裏切り】により勝敗を決した徳川家康。 元寇にて、大陸独自の兵器や戦法で撹乱する元軍を【神風(暴風雨)】により撃退した鎌倉幕府。 キューバ危機にて、米ソによる核戦争を【ケネディ大統領の働き】で回避した当時の世界。 ワールシュタットの戦いにて、【オゴタイ=ハンの急死】により領土を守り切った全ヨーロッパ諸国。 2・26事件にて、不運にも義弟の【松尾伝蔵陸軍大佐の身代わり】で暗殺を逃れた岡田啓介首相。 1940年にて、【杉原千畝リトアニア領事によるビザ発行】でナチスによる迫害から逃れたユダヤ人。 クリミア戦争にて、【フローレンス・ナイチンゲールの必死の看護】により命を救われた負傷兵たち。 …挙げればキリがない。 それくらい、絶望的渦中にある今の俺からすれば…彼女の存在は例文の【】に値する。 「朝比奈さん…俺は…。俺は!どうすればいいんですか!!?」 彼女が今ここにいるということは、間違いなく何かしらの理由があるはず。そうでもなければ、 朝比奈さん小の上司でもある彼女が…自らこの時代へとやって来ることなどありえない。 だとすれば、彼女は知っているはずだ…俺が今何をすべきなのかを…! 「落ち着いてキョン君!まずは状況をしっかりと把握しましょう。それによってあなたの成すべき事も… 決まってくるわ。だから、涼宮さんがこうして倒れるまでの間一体何があったのか…私に話してほしいの。」 話す内容によって、彼女が俺に与える助言もまた違ってくるのだろうか。 俺は…事の一部始終を洗いざらい打ち明けた。 …… 「なるほど…つまり、あなた達は藤原君たちに追われていたのね?」 「はい…そのせいでこの時代に来ていた朝比奈さんが…重傷を負ってしまって…っ!!」 「…それは。さぞかし大変だったのでしょうね。」 「なぜ驚かないんです!?彼女が消えてしまえば、大人であるあなたも消えてしまうんですよ!?」 「そのくらい心得てるわ。でもね…逆に言えば、今大人である私が この場にいる…生きてるってことは、つまり彼女はまだ死んでないってことよ。」 ! 「そして、あなたと涼宮さんがここまで逃げてくるまで随分な時間が経過してる。 ともなれば、私だけでなく長門さんや古泉君も無事だってことが推測できるわね。」 「意味がよくわかりません…どうして長門や古泉までも無事だって言えるんです!?」 「考えてもみて。私は…自分で言うのもなんだけど、戦闘に関しては全くの素人。ゆえに、 殺されるのも容易いわ。万一私の傷が完治したとしても、その後無事でいられる可能性は極めて低い。」 「……?」 「つまり、長門さんや古泉君が死んで私が生きてる状況ってのは 常識的に考えて絶対にありえないのよ。 だってそうでしょう?彼らは私なんかより桁違いに強いんだから。まあ…逆は可能性として十分ありえるけどね。 私が死んで彼らが生きてるっていうのは…自分で言っててちょっと悲しいけど。」 なるほど、確かに理屈に当てはめて考えればそうなる。…実に的確な指摘だった。 「ありがとうございます朝比奈さん。3人が生きてるってことがわかって…俺、安心できました!」 「ふふ、さっきよりも落ち着きを取り戻したようで何よりね。状況の把握は大切に…ね。」 朝比奈さんはこれを見越して話してたってのか…?さすが大人の貫録だ。 「それで藤原君たちは…どんな様子だったの?」 「どんな様子って、俺たちを殺しにかかってきたとしか…。」 「一体誰を殺そうとしていたのかしらね、彼らは…」 「…?ハルヒを除く俺たち全員なんじゃないですか?それからハルヒを拉致でもして… おおかた記憶を覚醒させるつもりでもいたんでしょう。…結果として覚醒しちゃいましたけど…。」 「でも…彼らがあなたたちの殺害、ないしは涼宮ハルヒの拉致を明言したわけではなかったんでしょ?」 …… 彼女は彼らの目論見について、何か知っているのだろうか…? 「…キョン君、今あなたが言った推理は、おそらくはずれよ。」 …はずれ??どういうことだ? 「単に、あなたたちは成り行きで彼らの障壁となってしまっただけ。彼らからすれば、 初めからあなた達は眼中になかったわ。ましてや、殺害など論外ね。」 …?彼女の言っている意味がよくわからない。 「じゃあ、藤原たちの目的は他にあったってことですか??…それは何ですか!?」 「…混み合った話はまた後にしましょう。涼宮さんをこのまま放置したまま話し続けるのも…胸が痛むわ。」 …確かにそうだ。倒れてるハルヒをどうにかせねばなるまい。 「とりあえず、彼女を背負ってこっちに来てくれないかしら?いつまでもここが安全とは限らない。 閉鎖空間と化しつつある現状では先ほどの地震といい、何が起こったっておかしくないもの。」 朝比奈さんの言う通りだ。 …俺は彼女の言うことに素直に従い、ハルヒのもとへ駆け寄った。 「…ハルヒ、大丈夫か…??」 …… 返事がない…どうやら本当に気絶してしまっている。俺は連れていくべく…ハルヒの肩を担ごうとする。 その時だったか ? 背中が妙に熱い …… …何だこの不快感は? いや、不快なんてもんじゃない…これは 生物に 本来あってはいけないものだ 「う…!!あ!!!!が…ああ…っ!!!!!」 猛烈な激痛 混沌とする意識 一体 何が起こった 俺は 背中を手で 触ってみる …… 何だ このどす黒い 赤い液体は 意識が 朦朧とする 「キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、 死ぬことよ。」 「冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。」 「まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が 私だったなんて想像もしなかったでしょ。」 俺 を 立って 見下ろす こいつは 誰? 「まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」 俺 を 見下し 笑う こいつは 誰? 意識が途絶えた …… ここはどこだ?辺りが真っ暗で何も見えない……そうか、あの世か。俺は死んじまったのか 2012年12月1日22時23分 俺は朝比奈みくるに刺殺された
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5821.html
…目的地に着いたのはいいが。未だ返信が来ないのはなんともな… 果たしてチャイムを鳴らしてしまっていいものだろうか? …まあ、もう来てしまってるわけだからな…。とりあえず、俺はインターホンを押した。 …… …… 一向に誰かが出る気配はない。…日曜だから家族総出でどこか遊びにでも行ってるのか?だとしたら、 メールが返ってこないのは一体どういうわけだろうか。単にマナーモード、ないしはドライブモードで 気付かないとか…そんなとこか? …まさかとは思うが、例の未来人たちに襲われたってことはねえよな…? 「…ハルヒ!いるか!?返事しろ!?」 玄関に詰め寄る。…やはり音沙汰が何もない上、玄関のカギは閉まっている。 「キョン…あんた、こんなトコで何してんの…??」 ふと背後から声をかけられる。そして、その姿を確認した俺は安堵の表情を浮かべる。 「…ハルヒか!無事だったんだな…。」 「無事って…?ていうか、人んちの玄関の前で叫んでみたりドアノブをいらってみたり… あんた傍から見れば完全な不審者よ?見つけたのがあたしでよかったわね!」 人が心配になって見にきやがったら…不審者だと!? ああ、確かにそう思われてもおかしくない状況だったかもな。素直に認めます、はい。 「なんとなくお前の顔色を伺いにきたんだよ。もう回復したのかなーなんてさ。」 「だからさ、大したことじゃないって言ってるでしょ。その証拠に…ほら。」 ハルヒが左手に提げている買い物袋を俺に見せる。 「お前買い物行ってたのか?」 「そうよ、夕食の買い出しにね。夢タウンまで。」 「夢タウンって…こっから3、4キロくらいはあるぞ?そんな遠くまで行ったのか。」 「大安売りの日だったからね。背に腹は変えられないわ!」 なるほどな…まあ、そんな遠方まで自転車で買いに行けるような体力があるんなら、 特に俺が心配するようなこともないのだろう。 「そうそう、俺は一応お前んち行くってメールしたぞ。なぜ返信しなかったんだ。」 「あ、そうなの?それはゴメンね。携帯、家に置き忘れてきちゃったから。」 そういうことか… 「まあ別にいいけどよ。携帯ってのは何かの非常時とかに有効だし、 なるべくなら肌身離さず持ち歩く癖はつけてたほうがいいと思うぜ。」 「ふーん…何?このあたしがどこぞの馬の骨とも知れない輩に襲われる心配でもしてるっての?」 お前をつけ狙ってる未来人がいるから注意しろ!とは言えねえなぁ… 変に言って刺激を与えてしまえば逆効果になる恐れだってあるし… 「いや、まあ、念のためだ念のため。」 「ま、持ってるに越したことはないもんね。次回から気に留めておくわ…。」 …… …気のせいだろうか?どこかしらハルヒの声が弱弱しく聞こえるのは… 俺の考えすぎか。 「…あ」 「どうしたハルヒ?」 「忘れた…」 「忘れた?何を?」 「カレー粉…」 …… どうやら今日のハルヒの夕食はカレーらしい。そういや買い物袋にはじゃがいもやにんじん、牛肉が ちらほら見える。それにしたって、カレーの基本であるカレー粉を忘れるなんてよっぽどだな。 しかも、それがあの団長涼宮ハルヒときた。やっぱまだ本調子じゃねえんじゃねえか?と疑いたくなる。 「あんた今あたしをバカだと思ったでしょ!!?」 「あー、いや、気のせいだ。気のせいだぞハルヒ。」 「まさかあんたの前でこんな失態を晒すなんてね…不覚。」 「気にすんなよ。人間誰にだって起こりえることさ。」 「あたしだって、あんなことなけりゃ気疲れせずにす…」 ん?何だって? 「いや…何でもないわ。とにかく、買ってきた食材を家に置いてくるから キョンはそこで待ってて。どうせヒマなんでしょ?」 そう言ってハルヒはカギを開けて家の中へと入っていく。…あの調子だと、 どうやら俺を否応にも買い物に付き合わせるつもりらしい。うむ、まったくもってハルヒらしい。 …まあ、もともと今日はハルヒと一緒にいようと思ってたから、結果オーライなんだが。 …それにしてもさっきハルヒは何を言おうとしたんだ?気疲れ?もしかして昨日長門が言っていたような… ハルヒを昏睡状態に陥れた電磁波とかいうやつが今だ尾を引きずってんのか?いや、それは違うな。 ハルヒをタクシーで送ったあの夜、特にハルヒから何かしらの異常を報告された覚えもないし… 時間が経って悪性の症状を引き起こしたにせよ、長門曰く…異常波数を伴う波動だ。 ならば、仮にそうであるなら相当深刻な事態に陥ってるとみて間違いないはず。 ところが、ハルヒは軽いノリで『気疲れ』という単語を会話に混ぜてきたではないか。この時点で すでに決着してるような気もする。粗方、テストで悪い点とったとか暖房のエアコンが故障したとかで 気落ちしたってとこだろう…頭脳明晰ハルヒ様なだけに前者はありえないがな。例えだ例え。 操行してる内にハルヒが中から出てきた。どうやら用事は済ませたようだ。 「じゃ行きましょ。」 「それはいいんだが、どこへ買いに行くつもりだ。まさか、また夢まで行くのか?」 「まさか。一個買うだけにそこまで労力は強いられないわ。近くのスーパーで十分よ!」 そりゃ非常に助かる。あんな距離、とてもじゃないが自転車で移動する気になれない… あれ?俺ってこんなにも体力のないヤツだったっけか?いつもならあれくらいの距離どうってことないだろ? いや、体力とか以前に元気が沸いてこな… …ああ、そうか。ようやく気が付いた。 今日まだ何も食べてねえじゃねえか俺…何かだるいと感じてたのはこのせいだったか。 「あんたさ、もうお昼食べたりしたの?」 ハルヒが尋ねてくる。 「昼飯どころか今日はまだ何も食ってねえんだ…。」 「は?何それ、バッカじゃないの??もう3時よ?? 普通朝飯やおやつの一つ二つくらいは食べてくるでしょうに…。」 哀れみの目でこちらを見つめてくるハルヒ。そんな目で見つめるな!仕方ねえだろ…起きたのが 2時過ぎだったんだしよ。まあ、これについてはハルヒには言わないことにする。まさかお前の今後について 本人抜きでファミレスで深夜遅くまでメンバーと会談してたなんて、口が裂けても言えない。 「運が良かったわね、あたしもまだ食べてないのよ。カレー粉買ってくる前にどこかに食事しに行きましょ!」 それは助かるぜ。今の俺には食欲は何物にも代え難い。 とりあえず、安いトコが良いってことで俺たちは最寄のファーストフード店へと足を運んだ。 看板にはMの文字が大きく書かれている。 「ダブルチーズバーガーのセットお願いします。飲み物は白ぶどうで。」 「あたしはテリヤキチキンバーガーのセットを。飲み物はファンタグレープで!」 しばらくして注文の品が届いた。俺たちは空いてるテーブルへと移動する。 …… おお、向こうの壁にドナルドのポスターが貼られているではないか。…だから何だという話だが。 「キョンどこ見てんの?…あら、ドナルドじゃない。」 最近のことだったろうか、俺の部屋に入ってきたと思いきや、いきなり 『ねえねえキョン君見て見て~!らんらんるーだよ~♪』とか言って万歳ポーズをとってきた妹の姿が 目に焼き付いて離れない。そういやそんなCM見た覚えはあるがな…妹曰く、これは嬉しいときにやるもんだとか。 それと、地味に学校で流行ってるんだとか何とか…なんとも混沌とした世の中になったもんだ…と俺は思った。 「そういえば、どうしてドナルドってマスコットキャラクターになんか成れたのかしら?」 「どうしてって…マクドナルドがそういう企画案を出したからだろ?」 「あたしが言いたいのはそういうことじゃない。仮にも国民皆に知れ渡っている有名チェーン店でもあるマックが、 どうしてこんな世にも恐ろしい顔をもつピエロなんかをイメージキャラクターにしたのかってことよ。」 世にも恐ろしい顔って…ドナルドに失礼だぞお前…。 いや、待てよ… 前言撤回、確かに怖い。 夜道を歩いていたとして真後ろにドナルドがいるとこを想像したらヤバイ。 就寝中ふとベッドの側で誰かが立っている気配があったとして、それがドナルドだったらヤバイ。 鏡を見たとき後ろには誰もいないのにドナルドの顔が映ってたりしたらヤバイ。 他にも…って、キリがねーな。 「百歩譲って、これがカジノとかパチンコみたいに大人客が中心の産業なら別にいいのよ。 問題なのはマックは子供たちからも絶大な支持を受けているってとこ。純粋無垢な子供たちが… 果たして妖怪ドナルドの顔を好き好んで食べに来たりするかしら?万一にもいたとすれば、 その子は精神科に見てもらうべきね。間違いなく病んでるわ。」 …ハルヒの言い分はめちゃくちゃなように見えて、実は結構筋は通ってる感じがする…まあ、さっきも 言ったように、俺ですら捉えようによってはドナルドは怖い存在だ。ましてや小さな子供たちは言うまでもない。 「言いたいことはわかるぜ。たいていマスコットキャラクターと言ったらカワイイ風貌してるよな。」 「そうなのよ。だから謎なの…これこそ不思議ってやつ?SOS団もようやく不思議らしいものを見つけたわね。」 おいおいそんなことで不思議になっちまうのかよ…お前の思考はいまいち理解できん。ドナルド様様だな。 …… 「あれだな、こりゃ発想の転換が必要なのかもしれねえぞ。」 「どういうこと?」 「俺の妹がつい最近ドナルドのらんらんるーってマネやってたんだよ。結構面白がってやってたぞ。」 「妹ちゃんが??」 「ああ。そこで俺は思ったんだが…例えばマックは子供、中高生、リーマン、家族と言った様々な顧客層を 開拓してる。つまり大衆向けチェーン店なわけだな。で、たいてい大衆向けともなれば、イメージキャラクター像も しだいと絞られてくるものだ。ポケモンやドラえもん、サンリオキャラのように愛くるしい容姿をしたものにな。」 「じゃあ尚更ドナルドはおかしいじゃないのよ。」 「そうだな。だから発想の転換だ。例えば、柄の悪い不良が… 公園で鳩や犬にエサをあげてるシーンを見かけたとしたら、お前はどう感じる?」 「漫画とかでありがちなパターンね…まあ、一気に印象はよくなるわ。」 「じゃあ、普段から動物たちにエサをあげている人と今言った不良…印象の上げ度合はどちらが大きい?」 「上げ度合と聞かれれば…後者かしらね。」 「そこなんだよ。見た目が怖いやつほど実際に良いことをしたときは周りから絶賛されるもんだ…人間心理的にな。 もちろん、普段から良いことをしてる人のがいいには決まってる。ただ、そのギャップの度合でついつい 錯覚しちまうもんだ。普段何らかのマイナスイメージをもってるヤツなんかに対しては…特にな。」 「つまり、ドナルドにもそれが当てはまるってこと?」 「そういうこった。よくよく考えてみれば、ただの芸人がふざけたことしたって当たり前すぎて何の面白味もないが、 おどろおどしいお化けピエロがらんらんるーをしてしまった場合は話は別だ。ネタ的要素が大きいが… その分、面白さの度合は一気に跳ね上がる。」 「…そうね!いつもヘラヘラしてる谷口がやったって『相変わらずバカなことやってるのね』 の呆れた一言で終わるけど、キョンが『らんらんるー』やってたらなんかすっごく面白そう! 普段おとなしくて我が強い人間なだけに…くっく…想像したら笑いが…あ…あっは…は… キョン、どうしてくれんの…よ、あんたのせいよ!あははは!!」 はあ… ホントにもう… そんなに俺のらんらんるーを見たいのなら、いくらでも見せてやろう。そんときはお前の夢にまで 出張するくらい洗脳してやるから覚悟しておけよ。悪夢を見てから悲鳴を上げたって、もう手遅れなんだからな? とまあ、冗談は置いといてだな…いくらなんでも谷口はそこまでバカじゃないぞ。友として、谷口の名誉のためにも 一応言わせてもらう。あいつは一見バカなように見えて、実際は越えてはならない境界線は常に把握している 立派なホモサピエンスだ。え?もしらんらんるーをしたらどうするかって?そんときゃ絶交だ。 「おい、国木田、あそこにドナルドの写真が映ってるぜ!」 「あー、そうだね。」 「そういやさ、最近ドナルドの…あるネタがブームになってるって知ってるか?」 「え…知らないなあ…谷口は知ってるのかい?」 「おうよ!流行を先取りした俺に知らないものなんてねーんだよ!」 …何か、後ろのほうで見知った声がするのは気のせいか?いや、気のせいだと思いたいんだが。 「あら、あれ谷口と国木田じゃない。あいつらもココに来てたのね。」 …… 「そのネタっていうの何なのか見せてほしいな。」 「じゃあ、しかとその目に焼きつけよ!らんらんるー!!!」 …友情決裂。さらば谷口、てめーとは金輪際絶交だ。 「なかなか面白い芸だね。あれ…あそこに座ってるのはキョンと涼宮さん?」 「…え…?」 国木田がその言葉を発した瞬間だったろうか、谷口の顔がまるで 頭上からカミナリを落とされたかの如く硬直してしまっているのはこれいかに。 「あいつ…本当にらんらんるーやったわよ?やっぱ谷口ってバカだったのね。」 「ハルヒよ、とりあえず同意しとく。」 「お、お前らどうしてココに!?」 谷口が紅潮した顔で咆哮する。あまり大声を出すな、他の客に迷惑だろうが。 「どうしてって、ただお昼を食べに来ただけよ。悪い?」 「そ、それもそうだな…はは…は…」 谷口が生気を吸い取られるかのごとく屍と化していくのが見てとれる。そんなに俺とハルヒに 見られたのがショックだったか…まあ、せめてもの慈悲として見なかったことにするから安心しろ。 「谷口さ、今はキョンと涼宮さんには話しかけないでおこうよ。二人ともデートしてるみたいだしさ。」 国木田よ…お前はお前でどうして火に油を注ぐようなことを言うのか… それも、俺たちにちょうど聞こえるくらいの音量で。 「な、何言ってんのよあんた!?何か勘違いでもしてんじゃないの!??」 言わんこっちゃない。団長様乱心でござるの巻。せっかくの温和な雰囲気がぶち壊しだ… とりあえず国木田、来週の月曜顔を洗って待ってろ。 というわけで、俺たちはどこぞやの二人組のせいで早々と退散を余儀なくされた。 久々のハンバーガー…もっと味わって食べたかったぜ。 「あー、なんなのあいつら!?落ち着いて食事もできなかったわ!」 気持ちはわかるが、お前もお前で過剰に反応しすぎな気もするがな…。 「まあまあ、気を取り直してスーパー行こうぜ。夕食のカレーこそはのんびりと食せばいいじゃないか。」 「…それもそうね。」 そんなわけで、俺たちはカレー粉購入のため、スーパーへと立ちよった。早速カレーコーナーへと向かう。 「あったあった、これよこれ!」 カレー粉を手に取るハルヒ。…辛口か。 「…キョン、カレーらしさって何だと思う?」 「…辛さか?」 「そうそう!辛さよ辛さ!辛口ほどカレーらしさを追求してるものもないわ!」 …ハルヒもカレーに対して何かしらの情熱をもっているのであろうか?長門、よかったな。こんな身近に ライバルがいたなんて、いくら万能長門さんと言えども想定外だったはずだ。とりあえず、突っ込みを入れとく。 「それは、単にお前が辛いもん好きってだけの話だろう…。」 「わかってないみたいね。まあ、あんたも食べてみれりゃわかるわよ。」 「へいへい、今度食べてみますとも。」 「何言ってんの?今から食べるのよ。」 …? 「つまりアレか…?お前が作るカレーを、俺がこれから食べるってことか?」 「そゆこと。どうせこの分量じゃ確実に一人分以上出来上がっちゃうし、両親も 仕事の都合で今日は帰ってこれないから、誰かに食べてもらわないとこっちが困るのよ。」 そういうことですかい。ま、せっかくの機会だし、ありがたく食させてもらうとするぜ。 後で家に連絡しとくとしよう…夕食は外食で済ますってな。 …… カレー粉を手に入れた俺たちは、特に寄り道をすることもなくハルヒ宅へと向かった。 岐路の途中で、俺は自宅へと先ほどのメッセージを伝えるべく電話をかけた。まあ、伝えたはいいものの 『朝6時に帰ってくるとは何事だ!?』とか『昼飯食べずにどこ行ってたの!?』とか散々怒られてしまったのは 秘密だ。いや、当然っちゃ当然なんだよな…おかげで思ったより長い電話となってしまった。 ハルヒが一人手持無沙汰になっているではないか…。 電話している最中に気付いたことなのだが、何やらハルヒは首をキョロキョロさせていた。 決して俺の方を見ているわけではなかったらしい。方向としては後ろか…後ろに何かあるのか? と思い、俺も振り返ってみたが…特に変わった様子はなかった。 電話を終えた俺はハルヒに問いかけてみた。 「なあハルヒ、一体どうしたんださっきから?」 「あ、いや、何でもないわよ…」 「さては、後ろ首や背中がかゆくて仕方なかったんだろう?どれ、俺がひっかいてやろう。」 「な、なに許可なく体に触れようとしてんのよ!?このセクハラ!」 「じゃあ許可があれば触ってもいいわけか?」 「こんの…変態!!」 あー、ついには変態呼ばわりか。それはきついな… まあ、お前の緊張をほぐそうと思っての行動だったんだ、大目に見てくれよ。 …… ハルヒが緊張しているのには理由がある。俺も先ほどまでは 単なる気のせいとしか思ってなかったんだが…やはり何かおかしい。 妙に違和感を感じるのだ…俺たちの後ろで。 気配が… …… 単刀直入に言おう。俺たちは何者かにつけられている。 そいつの姿を確認したわけではない。しかし、どう耳を澄ませたって…俺たち二人以外の足音が 後方から聞こえるという、この奇妙な事実…音の反響とかそういうわけでもない。 ただ一つ言えること。それは、早いとこハルヒ宅へと帰還したほうが良さそうだということだ。 さて、家へと着いた。 「早速作ろうっと。」 手を洗い、颯爽とキッチンへと向かうハルヒ。顔は笑ってはいるが…内心はある種の恐怖を 感じているに違いない。もしかして、昼に会ったときから何か様子がおかしかったのはこのせいか? …まさかとは思うが、ストーカー被害にでも遭ってるのか…? …… まあ、その是非を今ハルヒには問うべきではないだろう。あいつは今カレー作りに勤しんでんだ… その熱に水をさすような野暮なマネは…俺はしたくない。とりあえず、聞くのなら 夕食を食べ終わってからでも十分間に合うはずだ。俺も、今だけはこのことを忘れることにする。 …さて、俺は何をすべきか。さすがにハルヒがカレーを作っている横で、一人テレビを視聴するのは 何かこう…罪悪感が…。かと言って、キッチンに入って手伝おうと言ったところで足手まといだろう。 なんせ、食材や調理器具の場所が一切わからないのだから。つっ立ってるだけで邪魔なだけである。 …… まあ、何もしないよりはマシか。手を洗い、キッチンへと入る。 「あら、キョン手伝ってくれるの?」 「ああ。できることがあればな。」 …不覚、エプロンをまとったハルヒに一瞬ときめいた。 「じゃあそうね…このたまねぎとにんじん、じゃがいもを水洗いしててちょうだい! で、これ包丁…暇があるならたまねぎも切っててもらえると嬉しいわ。」 「おう、任せとけ。」 「あたしはナベに油をひいて、あと塩水でも作っとく。」 「塩水??一体何に?」 「いいからいいから、自分の作業へと戻る!」 へいへい。とりあえず水洗いに専念するとする。 …… 大体終わったか…時間もあるし切るとするかな。ハルヒは…というと、りんごを小さくスライスしていた。 …デザート?にしてはやけに小さすぎる。ああ…なるほど、さっき言ってた塩水につけるつもりなんだな。 それでアクをとり、カレーに入れるって魂胆か。…ん? 「ハルヒよ、お前辛いカレーが好きとか言ってなかったか?」 「そうだけど、どうして?」 「そのりんご、カレーの中に入れるんだよな。りんごはすっぱさもだが、同時に甘さも引き出すぞ。」 「ちっちっち、甘いわねキョン、あたしをなめてもらっては困るわ!単に辛さだけを追求するほど、 あたしは単純な人間じゃないのよ!確かに本質は辛さ…でもね、それにちょっと工夫をこなすことで、 辛さの中に甘さを見出せるおいしいカレーを作ることができるの!覚えときなさい!」 何やら言ってることが意味不明だが…とりあえずハルヒさんの情熱に、俺は感銘を受けておくとする。 そんなことよりたまねぎだ…こいつ、目から涙が出るから嫌いだ。何か良い方法はないものか… まあ、臆していても仕方ない、とりあえず切ろう。 …… くっ…涙が… 「キョ、キョン!?何やってんのよ!?」 「何って泣いて…いや、違った。見ての通り切ってんだがな。」 「じゃなくて、どうしてみじん切りしてんのかって聞いてんの!」 あ… ああああああああああああっーーーーーー!! しまった…カレー料理だということをすっかり失念してしまっていた… 「すまんハルヒ…申し訳ない。」 「…ま、いいけど。小さなたまねぎってのも、たまにはいいかもね。」 おや、すっかり怒鳴られるかと思ったが…それどころかフォローまでされてしまったぞ? なぜ上機嫌なのかは知らないが…反動で明日にもアラレが降りそうで怖いな。 「じゃ、今度はにんじんとじゃがいも頼むわね。はい、これ皮むき機!」 すでに中火でナベを熱しているから、おそらくもう少ししたらたまねぎと牛肉、 そしてにんじん、じゃがいもってな段取りか。それまでには間に合わせねえとな。 「おう、今度こそ任せとけ!」 早速にんじんとじゃがいもの皮むきに取り組む俺。 …… ふう…慣れない作業はきついぜ…普段あんま料理などしたことのない身なんで特にな。 ハルヒはというと、すでに俺が切ったたまねぎと牛肉をナベへと入れ、しゃもじで混ぜている段階だ。 こりゃ急がねえと… 「キョン、別に焦る必要はないわよ。それでケガでもしたらバカみたいだし。 何かあったら弱火にすればいいだけよ。」 「お前が俺の心配すんなんて珍しいな。いつもなら『早くしないと承知しないわよ!』とか言うそうだが。」 「へえ…?あんたはそう言ってほしいわけ?そう言ったってことは、そう言ってほしいのよね?」 「すまん。俺が悪かった…。」 やっぱりいつものハルヒだった。 …… よし、なんとかむき終わった。あとは切るだけだ…!おっと、 ここで焦ってはいけない。さっきのたまねぎのような失敗をしないためにもな。 「ハルヒ、にんじんとじゃがいもの切る大きさはカレーの場合、 人によって好みがあるんだが、お前はどのくらいの大きさがいいんだ?」 「そうね…別に大きくても構わないわよ。」 「了解したぜ。」 仰せの通り、俺はにんじんとじゃがいもを大雑把に乱切りする。 「どうだハルヒ!?今度はOKだろう?」 「あら、キョンらしさが出てていいんじゃない?及第点よ。」 キョンらしさって何だ?大雑把に乱切りされた雑な形…なるほど、これが俺らしさか。意味がわからん。 「たまねぎと牛肉の色合いもそろそろ良い頃ね。キョン!にんじん、じゃがいもを入れてちょうだい!」 「おう。」 ジューッと音をたてて食材がナベに転がり落ちる。これは美味いカレーにたどりつけそうだ。 「さーて、今度は……むむ、キョンにしてもらうことは特にもうないわね。」 「そうなのか?」 「ええ。後はあたし一人がナベの番をしてたら事足りるし。」 「そうか…あ、そういやご飯はどうした?」 「あたしが忘れるとでも?昼にとっくに保温済み。いつでも炊きだちで取り出せるわ。 ってなわけでお疲れ様、キョン。リビングにでも行って休んどくといいわ!」 「まあ、やることがないなら仕方ないか。また何か 手を借りたいことがあれば呼んでくれよな。カレー頑張れよ。」 「あたしを誰だと思ってんの?あんたは大船に乗ったつもりで構えときゃいいのよ!」 素直に『うん、頑張るね!』と返せばいいものを…ま、いいか。それがハルヒだもんな。 よくよく思い返してみれば、今日のハルヒはいつもよりおとなしく、そしてお淑やかなほうだったじゃないか…? これ以上ハルヒに対して何かを望むのは、それこそ贅沢というものだろう。 そんなこんなで俺はリビングへと向かい、ソファーに腰を下ろすのであった。 ふう…ようやく一息ついたな。カレーができるまでのしばしの間ボーッとしとくとするか… 何やらいろんなことがありすぎて疲れたぜ…。思えばここ2、3日は随分と濃い日々だったのではないか? 今こそこうやって、ハルヒと平凡にカレー作りを営んでいるが…。 ヒマだしいろいろと回想してみるか。まず事の発端は何だっけか?そうだ、震災で町が崩壊する 夢を見たんだ。それから…ハルヒから音楽活動についての発布があったな。しまった… そういやメロディー作ってこなくちゃいけなかったんだよな。いろいろあって忘れてた。 それから…そうだ、未来には気をつけろみたいな趣旨の手紙を下駄箱で入手したんだっけか。 その後、朝比奈さん大に会って藤原には気をつけろと言われ… …… もしかして、俺たちをさっきつけていたのは藤原…ないしはその一味か? だとしたらハルヒの監視ってことで十分説明もつくな。 回想の続きに戻るが…その後家に帰って寝て…今度は地球が滅ぶ夢を見てしまったと。翌日SOS団で バンド活動に取り組もうとしてた矢先にハルヒが倒れる…それがきっかけで夜緊急集会が開かれたと。 それから…俺は夢の中で過去の自分を垣間見て、目を覚ましたのちに長門と古泉にそのことを話して… …長門と古泉が俺を呼びだした理由、まだ聞いてなかったな。電話じゃなく口頭で話すつもりだったとこを見ると、 それなりに重要性を秘めた話だったのではないかと見受けられるが…。気になる、後で電話でもして聞いてみよう。 で、その後俺はハルヒの家に行き、途中で何かしらの気配を感じながらも家に帰り、そして今に至るというわけだ。 …… ハルヒが見せてくれた三度の夢、そして長門や古泉による解説等のおかげで…大体状況は つかめてきたのだが、いかせん未だ腑に落ちない点が多い。不明なものが多すぎるんだよ…。 例えば下駄箱に入っていた例の手紙。未来に気をつけろってのが何のことなのか…未だにわからん。 『未来』などという抽象的単語はできるだけ使わないでほしいね。無駄に、処理に時間がかかる。 その後朝比奈さん大から藤原に気をつけろと言われるわけだが、じゃあどうしてあんな手紙を入れたのかと 問い詰めたくなる。あの手紙の差出人が彼女じゃなかったのだとしたら、それもわかるが。だが、その場合 一体誰があんな手紙を?誰が何のために朝比奈みくるを偽って俺に手紙を?いや…あの執筆は 前に俺が見た朝比奈さん大と同じだったような気がする…じゃあやっぱりあの手紙は朝比奈さん大が …やめよう。頭が混乱してきた。 他は…ハルヒを気絶させた犯人は誰なのかってこと。朝比奈さん大の忠告を鵜呑みにするのであれば、 犯人は藤原一派だと一目瞭然なのだろうが…そもそもだ、俺自身何かしらのステレオタイプを抱いている 可能性がある。例えば、状況証拠から考えて犯人は未来人だと勝手に決め付けていたが…本当に犯人は 未来人なのだろうか?そうである場合は藤原一派だと断定できるものの、もしそうではなかったら? …考えたって悪戯に頭を疲弊させるだけだな。 後は、長門と古泉が俺に何を告げようとしていたのかってことだ。 まあ、これはさして重大な案件でもないだろう。本人たちに聞けばわかることなのだから。 そして最後は、俺たちをつけていた輩が一体誰なのかという…ハルヒを気絶させたヤツと同一犯と見て 間違いないんだろうが…。とりあえず事態の進展を待つ他ない、か。闇雲に一人で考え込んでたって、 次々と新たな可能性が生まれるばかりでキリがねえ。かといって、真相がわかるまで何もしない というわけにもいくまい。常に冷静に…氾濫する情報の取捨選択に徹して、なんとしてでもハルヒを守り抜く。 それが…今の俺にとっての最善であるはずだ。俺はそう固く信じてる。 「キョン!できたわよ!お皿出すの手伝ってー!」 おお、ようやく待ちに待ったカレーの完成か!今行くぞ。 「「いただきまーす。」」 合掌する二人。 …… 「どうキョン?味のほうは?」 「悪くないんじゃないか。十分食えるぞ。」 …しまった、この言い方では…まるで【ハルヒは料理が下手だとばかり】 と暗に示唆してるようなものではないか!?弁解しておくが、決してそんなことは思っちゃいない。 『涼宮ハルヒ』と聞いて思い浮かぶものは何だ?たいていは奇人変人、天上天下、唯我独尊、ギターボーカル、 スポーツ万能、頭脳明晰…などといった類であろう。俺が言いたいのは、これらのワードから連想されうる限りで 『料理』の要素を含んだものは見当たらない、ということ。つまり、俺はこれまでハルヒに対して…少なくとも 『料理』という項目に関しては、特に明確なプラスイメージもマイナスイメージも抱いてはいなかった ということである。おわかりだろうか?先ほどのハルヒへの返答は、先入観無きゆえの事故なのだ。 「ふーん、無難なコメントをするのね。ま、それも仕方ないか。」 おお、妙に勘ぐられたりしないで助かった…って、仕方ないとはこれいかに? 「例えばこのお肉。これ安物なのよ。」 「そうなのか!?」 「焼き肉とかで使用する高級肉を使えばもっと味も出たんでしょうけどね。財布との相談で、ついカレー用の 薄いバラ肉買っちゃったのよ。ああ、でも決して邪見したりしないでよね!?質による差異こそあれどカレーに おいてはね、牛肉の場合ほとんどはカレー粉との整合性で味が決まったりするんだから!他にもナベに入れる スープだって…本来なら鶏のガラを煮込んだものじゃなきゃいけなかったのに時間との都合で…。でも 一般家庭とかでもね!時間に余裕がないときは代わりに水を使うってのはよくある手法なのよ!?だから」 「わ、わかった!!お前が精一杯頑張ってるってのは伝わったからもういいぞ! そりゃ金銭的・時間的な問題じゃ仕方ねえよ。それにだ、仮にもカレーをおごってもらってる身分の俺が お前に対して文句や贅沢を言うとでも…思ってんのか?んなわけねーだろ。感謝してるんだぜ…本当にな。」 「わかれば良し!」 …顔が少し赤くなってるように見えるのか気のせいか? まあ、いろいろ取り乱したからな。おおかた動揺でもしてるんだろう。 「それにしても滑稽ね…この細かく刻んである小さな物体は。」 いきなり話題変えやがったな…しかも、敢えて遠回しに言うことで俺に何かしらの揺さぶりをかけようとしてる。 「たまねぎ、みじん切りにして悪うございましたね。」 …こればかりはどうしようもねえ。どう見たって俺が悪い。 「それと、泣きながら切ってる誰かさんも滑稽だったかな。」 さすがにこれには反論させてもらおうか。これに関しては何一つ俺に落ち度はない! 相手がたまねぎである以上、この怪奇現象は生きとし生ける全ての者に訪れるものなのであるから。 調子に乗るのもそこまでにしてもらおうかハルヒさんよぉ…。 「そんなこと言っていいのか?ハルヒ。お前もこれを切りゃあ決して例外じゃねえんだぞ?」 「やっぱアホキョンね。そんな当たり前の反駁、聞き飽きたわ。」 …何…?? 「良いこと教えてあげる。たまねぎってのはね、周りの皮をむいたあと 冷蔵庫に10分くらい入れとけば… その後切ったって涙は出にくくなるのよ!その様子だと知らなかったみたいね~」 「何だと!?それは本当か??」 「本当よ。ま、疑うのならヒマなとき家で試してみることね。」 …またまた俺の敗北である。どうやらこいつのほうが俺より一枚上手らしい…って、ちょっと待て。 「ハルヒよぉ…そういうことはなぁ…」 …… 「たまねぎを切る前に言え!!」 「怒らない怒らない、過ぎちゃったことなんだし…もうどうでもいいじゃない。 『過ぎ去るは及ばざるがごとし。』って言うし!」 どうでもよくない!しかもそのコトワザの使い方違う!あ、いや…ハルヒのことだ、 おおかた敢えて誤用してみましたってとこだろう。まったくもって嫌味なやつだ… そんなバカ話をしながら、俺たちはカレーを平らげた。 …… 「それにしても、こういう辛い料理と合わさると麦茶のうま味も一気に引き立つな。」 「確かにそうね。…おかわりいる?」 「お、すまんな。頼む。」 2リットル型のペットボトルから静かに麦茶を注いでくれるハルヒ。その麦茶をすする俺。 …… そろそろ本題に入るか?いや、こういう事は向こうから話してくるのを待つべきなのかもしれないが。 しかし、相手に自分の弱みを見せようとしない…気丈で自尊心の高いハルヒが 安々と悩みを打ち明けてくれる…ようにも思えない。ここは俺から切り出すべきではなかろうか? 「ハルヒ、最近何か嫌なことでもあったか?」 「…え、い、いきなり何??」 揺さぶりをかける俺。 「お前が元気なさそうに見えたからな。ちょっと気になったんだ。」 「…あたしそんな顔してた?」 「ああ。」 「……」 …… 「あんたってさ…ボーっとしてるようで、実は結構鋭いとこがあるわよね。」 …ついに観念したのか、ハルヒは話し始めた。 「…朝方に両親が出てってからね…何か様子がおかしいの…。」 「……」 「最初はただの気のせいだと思ってたんだけどね…やっぱりするのよ…気配が。」 「…気配か。」 「家にはあたし一人しかいないはずなのに…何か音がするの。それも風の音とか暖房の音とかじゃなくて…。」 「…人的な音…か?」 「ええ…そうよ。聞き間違いだと思いたかったけど、確かに聞こえた。でも周りを見渡したって誰もいない…。」 「……」 「笑っちゃうよね、キョン。あたしがこんなこと言うなんてさ…少なくとも、おかしくはないはずなんだけど…。」 なるほど、ハルヒが俺に話をためらう理由がわかった。俺の考えていたような、単なるプライドだけの 問題じゃないらしい。話すことによって俺に【幻聴】や【被害妄想】などと断じられるのが怖かったのだ。 それもそうだろう…音がするのに周りには誰もいない。こういった不可解な症状を継続するようであれば、 たいていの常人はハルヒを【異常者】と決めてかかっても何らおかしくはない。 それをハルヒはわかっていた。だからこそ、俺にも話したくなかった。 「安心しろよハルヒ。お前がおかしいだけなら、俺もお前の仲間入りだぜ。」 「ど…どういうこと?」 「さっき外を歩いててな、俺も同様に何か気配を感じたんだよ。気配というか…人の足音みたいのをな。」 「キョンも!?」 「ああ。もちろん、そのせいでお前が極度の緊張状態に陥ってることもわかってた。 だから…くだらんジョークでも言って気休めさせてやろうと思ったんだがな、すっかり変態呼ばわりというわけだ。」 「…そうだったの。でもあたしは謝らないわよ!人の体を触ろうってのは、理由が何であれ言語道断なんだから!」 「おお、元気出たみたいだな。それでこそハルヒだ。」 「キョン…。」 …… 「その後、あたしは家の中にいるのが怖くなって外へ出ようと思った。遠くて…そして人通りの多い場所へ。」 「…まさかお前が夢タウンまで買い物しに行ったってのは…そのせいだったのか??」 「ええ…本音はね。建前は大安売りって言っちゃったけど。だからね… 家に帰ってきてあんたを見つけたときは正直ホッとした。」 …古泉と長門の話を聞かないでハルヒに会いに行ったのは、結果的には正解だったんだな。 「それからはあんたと行動を共にしたわけだけど…まさか外でも忌々しい気配を感じるとは思わなかった…。」 「スーパーから帰る途中だよな。」 「キョンはさ…あれ、一体何だと思う?人間?幽霊?」 「幽霊はないだろうよ。いつの時代のいかなる怪奇現象も元をたどれば 人為的、ないしは単なる自然現象であることが確定済みだからな。」 「…じゃあキョンはどっちだと思ってんの?」 「常識的にも考えてみろ、あんな自然現象あるわけねえだろうが。これはれっきとした人間の所業だ。」 「じゃあ何?ストーカーとでもいうの??…ワケわかんない!心当たりなんかないのに…」 ストーカー…まあ表現自体は間違ってねえかもしれねえな。 お前に神としての記憶を覚醒させようとする何者かの仕業なんだろうが。 …こればかりは俺一人では手に負えない。外に出て、古泉にでも電話して相談するとしよう。 「ハルヒ…ちょっとばかし外出してくる。」 「!?どうして?」 「いや…家の周りに不審人物がいないかどうか確かめてこようと思ってな。」 「な…!?もうあたりは暗いのよ?危険だわ!」 「安心しろよハルヒ。すぐ戻ってくるからさ。」 立ち上がり玄関のほうへ向かおうとしたら、急に後ろ方向へと引っ張られる。 …ハルヒにジャケットの裾をつかまれていた。 「…本当にすぐ戻ってくるんでしょうね?」 台詞こそ毅然としていた。…だが、その手が震えていたのはどういうことだ?これじゃまるで、 【一人にしないで】と言ってるようなもんじゃないか。その瞬間、胸が痛くなった。同時に、ある種の 苛立ちも覚えた。さっきこんな話をしたばかりだというのに、ハルヒ一人残して出て行こうとする、俺自身に。 「すぐ戻ってくるから心配すんな。」 「キョン…」 できれば俺だってハルヒと一緒にいたい。だが、事態を好転させるには今じっとしてるわけにはいかなかった。 後ろ髪を引かれる思いで、俺は外へととび出した。 …電話をかける前に、有言実行はしておかねばなるまい。 俺は庭や周辺を隈なく歩いてみた。…特に怪しいところはない…今のところは。 「もしもし、俺だ」 「おや、キョン君。無事涼宮さんとは会われましたか?」 「ああ…おかげ様でな。ところで話したいことがあるんだが…」 「僕でしたら、昼あなたとお会いした公園におります。どうせならそこで会話といきませんか? 昼のときと同様、長門さんもそこにいらっしゃいますので。」 目的地に着いた俺。ハルヒのとこから走って2分もかからない距離だ。 「夜分遅くご苦労様です。」 「……」 案の定古泉と長門がそこにいた。 「古泉…そして長門。まさかとは思うが…昼3時くらいに会ってから… 今(夜8時)の今まで、ずっとこの公園にいたんじゃあるまいな…!?」 「そのまさかですよ。ですよね、長門さん。」 「…そう。」 「…マジかよ。よくこんな寒い中5時間以上もいられたな。何かワケでもあるのか?」 「涼宮さんを守るため…と言っておきましょうか。この公園は彼女の家から非常に近いですからね。 何かあったときにもすぐ駆けつけられる距離にありますから。」 「…わかるようでわからないな。ここからハルヒ宅までは…400mくらいはあるぞ。 もっと良い場所があるんじゃないか?塀の近くとか。」 「それでは、通行人から不審者だと誤解されてしまう恐れがある。かえって無駄な事態を引き起こしかねない。」 「長門さんの言う通りです。逆に公園のような場所であるなら、留まっていたところで 別段不審に思われることは ありませんからね。ベンチに座って読書をしたり、弁当を食べたりしているのであれば尚更です。」 なるほど。確かに一理ある…。 「ということは、お前は弁当をここで食ってたわけだな。」 「さすがに飲まず食わずでずっといるわけにもいきませんからね…途中コンビニに出向いたりはしてましたよ。 そんなことより、何か我々に話したいことがあってここに来たのでは?」 「おう。じゃあ、二人とも聞いてくれ。」 …… 「それは恐ろしいですね…。これは僕なりの推理ですが、犯人は自身の存在を情報操作で 隠蔽したのではないでしょうか?実際はそこに存在していても、外部からは姿を確認することはできません。 長門さんのような力を有す人物ならば、いとも簡単でしょう。」 「情報操作?長門のような力?…じゃあ、ハルヒや俺をつけてた野郎の正体は宇宙人ってことか?」 「古泉一樹、その意見には反論させてもらう。」 珍しく異議を唱える長門。どうやら、彼女の犯人像は古泉とは異なるらしい。 「確かに古泉一樹の言う通り、その程度の情報操作ならば 我々情報統合思念体にとっては 造作もない。実行は可能。しかし、音が聞こえたというのであれば話は別。」 音…足音のことだな。 「なぜなら我々は環境情報の改ざんで、一般に有機生命体が移動時に伴うノイズ音をも 外界からシャットアウトできるから。外部に音が洩れるというのは、まずありえない。」 「…言われてみればその通りです。いやはや、長門さんには敵いませんね。」 宇宙人説は消えたか…。 「じゃあ長門、お前はこの件についてはどう思う?」 「…可能性として、ステルス迷彩を考えてみた。」 す、ステルス??って、アレか?光の屈折具合で姿が見えなくなるとかっていう… 「ステルス迷彩ですか。確かに、それを体にまとえば瞬時にして透明人間の出来上がりですね。 もっとも、現代の科学技術ではまだ実用化には至っていないようですが…。」 なるほど、それならばあの足音の説明もつく。だが、実用化されてないとなると…またしても行き詰まりか。 「確かに、この現代においては取得不可。しかし、未来技術をもってすればそれも可能。 今の科学技術の進展具合から推察するならば、そう遠くない未来ステルス機能は実用化の段階に入る。」 …… 「つまり、犯人は未来人。私はそう考える。」 …これほどまでに説得力のある説明をされて異議を唱えるヤツなど、もはやどこにもいないであろう。 長門らしい見事な推理…彼女の手にかかればわからんことなど無いと言っていい。 「長門、ハルヒを気絶させたやつと今回の犯人は…もしかして同一犯か?」 「確証はない。しかしその可能性は高い。」 やはりそうか…まあ誰が相手にせよ、常に警戒レベルはMAXでいるべきだろう。なんせ、電磁波やステルス等 といったとんでも技術を有す連中だ。油断して攻撃を喰らうような事態にでもなればシャレにならん。 「お前らのおかげで大体のところはわかったぜ…恩に切る。」 よし、これにて一件落着…というわけでもない。まだ用事が一つ残ってる。 「古泉、長門、話してくれ。昼に俺を呼びだした際、一体何をしゃべろうとしてたのかをな。」 「「……」」 なぜか無言のままの二人。 「ど、どうした??大丈夫か?」 「あ、いえ…すみません。つい言うのをためらってしまいました。」 ためらう…とは?そんなに言いづらい案件なのか? 「私も、そして古泉一樹も話すことに抵抗を感じているのは確か。」 「長門がそんなこと言うなんてよっぽどだな…でも、お前らは 昼呼び出して俺に話そうとしたじゃないか。何を今更躊躇してるんだ?」 「「……」」 二人は答えない。アレか、話の流れ的に言いにくいってことか?…今俺たちは何の話をしてた? 俺とハルヒをつけてた犯人のことだな。で、それは未来人の可能性が高いってことで話は終了した。 …… 「もしかして、未来に関係するようなことでも言おうとしてたのか?」 「…長門さん、そろそろ話しましょう。黙っていてもラチがあきませんし。 何を話すのか、薄々彼も気付いてるようです。」 「…了解した。」 嫌な予感がする。 「今から我々が話すことというのは」 …… 「朝比奈みくるのこと。」 まあ、そんな気はしてた。昼に長門と古泉に呼び出された際、朝比奈さんの姿だけ見当たらなかった時点で。 「朝比奈さんが…どうかしたのか?」 「今日の午前11時47分、朝比奈みくるがこの世界の時間平面上から消滅した。」 ……なん…だって? 「しょ、消滅って…どういうことだ?!朝比奈さんはどうなったんだ??」 「落ち着いてください!彼女は無事です!」 「午後1時24分、彼女は再びこの時間平面上へと姿を現した。」 「…つまり、今朝比奈さんは普段通りにこの町にいるってことか?会おうと思えば会えるってことか?」 「そういうことです。」 「よかった…。」 俺は安堵の表情を浮かべる。 「って…そりゃまたどういうことだ?つまり朝比奈さんは11時何分かに時間跳躍でもしたってことか?」 「そう。行き先はもともと彼女がいた世界…未来だということは判明している。」 「…なら、特に驚くようなことでもないんじゃないか? 上からの急な指令で未来へ帰ったりとか、大方そんなとこだろ?」 「平時であるなら我々もそう考えます…しかし、今は違います。非常時です。 一か月もしない内に世界が滅ぼされる…この事態を非常時と言わずして何と言います。」 「そりゃ、確かに非常時なんだろうが…だからどうしたってんだ?」 「今のこの世界が滅べば…当然ですが未来も消滅します。 そしてその影響は少なからず未来へも…すでに出始めているはずです。」 「そして今この世界は滅ぶか否かの…いわば分岐点にたたされている。それは、同時に 未来が滅ぶか否かの分岐点とも置き換えることができる。その瀬戸際の時間軸に位置する未来人を 未来へと帰還させるというのはよほどの理由があってのことだ、と私は考える。」 「…お前らの理屈で言えば、つまり朝比奈さんはこの世界、そして未来を救うべく奔走してるってわけだろ? なら、それでいいじゃねえか!なぜ話すのをためらったりしたのか、俺にはわからんな。」 「確かに、ここまでの会話を聞いただけではそう思うのも当然でしょうね。ここからが話の核心なわけですが… では、そんな重大性を秘める時間移動を…彼女はどうして我々に話してはくれなかったのでしょうか??」 …… 「彼女がここの時間軸に戻ってきたのは午後1時24分。その時刻から 今(午後8時35分)まで…伝えようと思えば私たちにはいつでも伝えられたはず。」 「…禁則事項とやらで話ができなかっただけじゃないのか?」 「この世界は危機に瀕してるのですよ。我々だって…最悪の場合死ぬかもしれない。 そんな時期に際してまでも、彼女は我々より【禁則事項】とやらを優先しようとするわけですか?」 「…古泉よ、それ以上朝比奈さんのこと悪く言ったら承知しねえぞ。 あの人が俺たちのことどうでもいいとか、そんなこと思ってるわけねーだろが!」 「……」 「…古泉一樹を責めないであげて。彼は彼なりに頑張っている。 彼と機関の立場を…朝比奈みくるのそれと当てはめて冷静に考えてみるべき。」 長門… 朝比奈さんは俺たちの仲間であると同時に未来人でもある。 未来からの指令は絶対…禁則事項がそれを物語ってる。 古泉は…同じく俺たちの仲間であるとともに機関に属する超能力者でもある。 機関からの命令は絶対… 絶対…? 俺は以前古泉から聞かされた言葉を思い出していた。 『もしSOS団と機関とで意見が分かれてしまった際には… 僕は、一度だけ機関を裏切ってあなた方の味方をします。』 …古泉の俺たちへの仲間意識は相当なもんだったじゃないか。 だからこそ、古泉は朝比奈さんに対して苛立ちを覚えてしまったのか? 仲間よりも未来を優先する素振りを見せてしまった…彼女を。 「すまん古泉…お前の気も知らないで。」 「…いえ、いいんです。僕こそつい熱くなって… 仮にも仲間を悪く言うようなことを言ってしまい、申し訳ないです。」 「…私自身も朝比奈みくるのことは決して悪く思いたくはない。 しかし、まだあなたに伝えねばならないことがある。」 話すのをためらってた理由は…まだありそうだな。 「言ってくれ長門。覚悟はできてる」 「…朝比奈みくるがここの時間軸に戻ってきた午後1時24分以降、 これまでに6回…ある未来人との電話での接触を確認している。」 「ある未来人?一体誰だ…?」 気のせいか動悸が速まる俺。 …… 「パーソナルネームで言うところの、藤原。」 …え?
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1880.html
どうしたんだろう。舌がなんだか縮こまっちゃって、うまく話せない。 「ね、ねえキョン。その、つまんない疑問なんだけど、さ」 「うん?」 こちらを見るキョンの様子がおかしい。明らかに心配そうだ。そんなに今のあたしはひどい表情をしているのか。 「こないだ、なんとなく深夜映画を見てたのよ。それがまた陳腐でチープなB級とC級の相の子っぽい、つまんない代物だったんだけど」 「ふむ、そりゃまた中途半端につまらなそーな映画だな。しかしハルヒ、あまり夜更かしが過ぎるとお肌に悪いぞ」 「うっさい、話を混ぜっ返すなっ! …でね、その映画ってのが、途中で主人公をかばってヒロインが死んじゃうのよ。でもって墓前に復讐を誓った主人公が敵の本陣に乗り込んで、クライマックスになるわけなんだけど」 べたりと汗のにじんだ手の平を握りこんで、あたしはキョンに訊ねかけた。 「もしも。もしもよキョン、あんたが言った通り映画の主人公がトラブルを乗り越えて行くべき存在なら…ヒロインが死んじゃったのって、それって主人公のせいなのかしら…?」 あたしがその質問をした途端、キョンは「あ」と小さく声を上げた。苦虫を噛み潰したような表情になって、それから、ゆっくり口を開いた。 「おい、ハルヒ。分かってるとは思うが、さっき俺が言ったのは『物語を客観的に見ればそういう考え方も出来る』って程度の話だぞ」 うん、そうよね。それは分かってる。 「脚本家やらプロデューサーやらの都合じゃヒロインが死ぬ必然性はあったかもしれないが、それは当然、主人公の意思とは無関係だ」 それも分かってる。けど。 「だいたい、自分が活躍するためにヒロインが死ぬ事を望むヒーローなんか居るかよ。もし居たとして、そいつはヒーローなんかじゃない。 だからその、何というか。要するに、俺はお前を責めるつもりであんな発言をしたわけじゃないってこった。単純にお前にトラブルを乗り越えてく覚悟があるかどうか確かめたかったっつーか、なんとなく意地悪な質問をしてみたかっただけというか。 大体ここまで人を巻き込んどいて、いまさら遠慮とかされても逆にだな」 「分かってるわよそんな事ッ! だけど…」 そう、分かってる。分かってるのよ。キョンの言い分は全て理にかなってる。こんなに声を荒げてるあたしの方が、きっとおかしいんだ。 でも。それでも! 「でもやっぱり、主人公が英雄的活躍を求めた結果として、ヒロインが死んじゃった事には変わりないじゃない!? あたしは、そんなのは嫌…。あたしのせいでキョンが居なくなるなんて、絶対に我慢ならない事なのよ!」 ああ、言ってしまった。直後に、あたしはそう思った。 それは言いたくなかったこと。認めたくなかったこと。でも言わずにはいられなかったこと。 「――北高に入って、あたしの日常はずいぶん変わったわ。毎日がとても楽しくなった。中学の頃なんかとは段違いに。 あたしはそれを、自分が頑張ったおかげだと思ってた。SOS団を作って、不思議を追い求めて。前に向かってひたすら走ってるから、だから毎日楽しいんだと思ってた。 昨日まで、ついさっきまで、そう思ってたのよ! でも、違った。本当はそうじゃなかった…」 「何が違うんだ? お前が日常を変えようと努力してたって事なら、俺が証人台に立ってやってもいいぞ? その努力の方向性が正しかったかどうかは別問題として」 この湿った雰囲気を変えようとでもしてるのだろうか、軽口っぽくそう言うキョンを、あたしは鋭く睨みつけた。 「だから、それよ! 気付いちゃったのよ、あたしは、その事に!」 「意味が分からん。いったい何に気付いたっていうんだ?」 「あんたが、あたしの背中を見ていてくれるから! だからあたしは走り続けていられるんだって事によ!」 気が付くと、あたしは深くうつむいていた。今の表情を、キョンの奴には見られたくなかったのかもしれない。 「中学の頃だって、あたしは走ってたのよ。日常を変え得る不思議を捜し求めてね。でもあたしはずっと一人で…息切れとか起こしたって、それに気付いてくれる奴は誰も居なかった…」 「…………」 「あの頃と今と、何が違うのか。 今のあたしが前だけ向いて、心地よく走り続けられるのは、それはあたしの後ろで、あたしの背中を見続けてくれる奴が居て…。もしもあたしが転んだとしても、すぐにそいつが駆け寄ってきてくれるっていう安心感の後ろ盾があるからだ――って…気付いちゃったのよ…」 喋っている間に、いつの間にか立ち上がったキョンが、すぐ前に立っていた。あたしはうつむいたままだからその表情は分からないけど、腕の動きから察するに多分、さっきぶつけた後頭部をさすっているんだろう。 「ありがたいお言葉なんだが、お前にそう殊勝な事を言われると、驚きを通り越して寒気がするんだよなあ。 ともかくハルヒよ、別にそれは俺だけの話じゃないだろ。朝比奈さんや長門や古泉、その他もろもろの人がお前を支えてくれてる。俺なんかパシリ役くらいしか務まってないぞ」 「そうよ! あんたはみくるちゃんみたいな萌えキャラでもないし、有希ほど頼りになんないし、古泉くんほどスマートでもないわ! せいぜい部室の隅に居ても構わないってくらいの存在よ!」 「やれやれ、俺はお部屋の消臭剤か」 なんで、あたしはこんなにイラついてるんだろう。どうしていちいちキョンの言葉に反応してしまうんだろう。 あたしの不愉快さは、それはもしかして…不安の裏返しなの? 「そう、あんたは特に取り柄があるわけでもない、ただ単に手近な所に居ただけの奴だったのに! そのはずなのに! でもあの春の日に、あたしの髪型の変化に気が付いたのはあんたで…その後もあたしの事を一番気に掛けてくれるのはあんたで…。 いつの間にかあたしは、あんたに見られる事を意識するようになってた…。あたしがこうしたらあんたはどんな反応するだろうって、それが一番の楽しみになってた。 あんたが変えちゃったのよ、あたしを! もうあの頃のあたしには戻れないのよ! それなのに、あんたがあんな事を言うから…」 ああ、失敗。失敗だ。 うつむいてしまったのは大失敗だった。確かに表情を見られはしないけど、にじみ出てくる涙をこらえられないんじゃ、意味がない。 「あんたが…人間なんて明日どうなってるか分からないとか言うから…。だからあたしは、こんなに不安になってるんじゃない!」 あんまり悔しくって、あたしは涙に濡れた顔を上げ、再びキョンの奴を睨み据えていた。 つい先程聞いた有希のセリフが、また胸の奥でこだまする。 『彼の言っていたのはある面での、真理』 『価値観は主に相対性によって生ずる。最初から何も無かった状態に比して、あるはずだったものをなくしてしまった時の喪失感は、絶大』 今なら、その意味が分かる。 あたしにとってあるはずのもの、そこに居てくれなければ困るもの。それは、キョンだったんだ――。 「もし…もしもあんたを失っちゃったら、きっとあたしは今のあたしのままじゃいられない…。何度も何度も後ろを振り返って、おちおち前にも進めなくなる…。 そんなの嫌! そんなのはあたしじゃない! だから、あたしは!」 こんな事を言ったら、キョンはきっとあたしの事を軽蔑するだろう。そう思いながらも、でも一度ほとばしった罪の告白は、途中で止められるものではなかった。 「あんたをここへ、ラブホへ誘ったのは、なんとか励まして元気付けたかったからっていうのは本当。 でもあたしにはあたしなりの思惑があって…。あんたが目の前に居て、あんたに触れる事が出来る内に、あんたとしておきたかった…。 あんたがあたしと一緒に居たって証拠を、心と身体に刻み込んでおきたかったのよ! 悪い!?」 はあ。 言っちゃったなあ…あたしのみっともない本音を。 キョンの奴も、さすがに愛想が尽きただろう。いつも偉そうぶってるあたしがこんな、ただの利己主義で動いてるような人間だと知ったら。 キョンの反応が恐くて、あたしはギュッと固く目を瞑って、肩を震わせる。そんなあたしの耳に、キョンの呆れたような声が届いた。 「やれやれ。男冥利に尽きるお言葉ではあるんだが、願わくばもう少し可愛げのある言い方をしてくれないもんかね」 「………は?」 「いや、訂正しとこう。可愛げのあるハルヒってのは、やっぱりどうも薄気味悪い。少し横暴なくらいがお似合いだな」 「な、なんですってぇ!?」 あたしの本気を茶化すような、あまりといえばあまりの雑言に、あたしは思わず目を剥いて、キョンの胸倉を掴み上げてしまう。 すると、キョンの奴は悪びれもせずにあたしの目を見つめ返し、子供をあやすようにポンポンとあたしの頭を叩きながら、こうささやいた。 「なあ、ハルヒ。ひとつ訊くぞ?」 「…何よ」 「お前は、俺に消えていなくなってほしいのか?」 「なっ、このバカ! 今までなに聞いてたのよ、その逆でしょ!? あたしは、あんたと…」 「だったら、つまんないこと心配すんな」 え、と顔を上げたあたしに、キョンは驚くほどキッパリと言い切ったの。 「お前が望んでる限り、俺は、ずっとお前の傍にいるはずだから」 ――まったく。 まったくもう、なんでこいつは。 普段は優柔不断の唐変木ののらくら野郎のくせに、こういう時だけは断言できたりするのだろうか。 不覚にも、ぐっと来てしまったじゃないか。 不覚、不覚! 涼宮ハルヒ一生の不覚! 気付けばあたしはキョンの胸にすがりついて、ボロボロに泣き崩れていた。さっき流した悔し涙や、不安と寂しさで流した涙とは全然違う、それは頬がヤケドしそうなくらい、熱い、熱い涙だった。 次のページへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/661.html
━━━季節が移り変わるのは早いもので、気が付けばカレンダーが最後の一枚になっていた。 俺の波乱万丈な2006年も、あと少しで終ろうとしている。 思えば、今年はいろんな事がありすぎた。 本当に色々と・・・ まあ、ハルヒと付き合う様になってからは、比較的に穏やかな日々が続いている気がするが。 そして、俺は今朝も早朝サイクリングの如くハルヒを迎えに自転車を走らせているのだ━━━━ 【凉宮ハルヒの指輪@コーヒーふたつ】 いつもの待ち合わせ場所に着くと、俺より少しだけ遅れてハルヒはやって来た。 しかし・・・何故か、私服だ・・・。 「おはよう・・・。」 -おはよう・・・どうした? 「うん・・・アタシ・・・今日は休むわ。」 -えっ? 「迎えに来てくれて悪いんだけどさ?ちょっとね・・・」 -あ・・・ああ、別に気にするな。それより大丈夫か? 「・・・。」 -ハルヒ? 「後で、メールするから。」 そう告げるとハルヒは背中を向け、自宅へと戻って行った。 俺は驚きのあまり詳しく話も訊けずに、しばらく唖然としてしまった・・・。 だって、そうだろ? 何が何でも、学校だけは休まなかったハルヒが・・・だぜ? 何かあったんだろうか。 心配ながらも、とりあえず俺は学校へと急ぐ。 考えてみれば、一人で学校へ行くのは久しぶりだ。 たまにはこういう感じも気楽でいい。 ただ、少しだけペダルが軽すぎる気もするが・・・。 学校へ着いて、下駄箱に向かうと谷口と国木田が居るのが見えた。 向こうも此方に気が付いたらしく、「アレ?」という顔をしている。 やはりハルヒが学校を休むって事は、第三者のコイツらにとっても意外な事なんだろうな。 とりあえず、挨拶を交しに俺は彼等に近付いた。 -よう! 「あれ?今日はキョン一人か?さては・・・遂に破局かっ?」 「珍しいね?凉宮さん、風邪かな?」 谷口に「アホ」の二文字が付いて国木田に付かない理由は、おそらくこの発想に関する格差に因るところだろうな。 アホな谷口はスルーして、話を続ける。 -ああ。俺もよく判らないんだが、具合が悪いらしい。 (本当によく判らないんだよな。 特に調子が悪そうにも見えなかったし。) 俺はハルヒが休んだ理由を少しだけ考えながら、二人と共に教室へと向かった。 普段通りに席に着き、授業の準備をする。 そして授業が始まり、退屈な時間が過ぎていく。 ふと振り返ると、誰も居ない後ろの席が俺の視界に触れた。 (放課後にでも、会いに行くかな・・・) そんな事をボンヤリと思いながら、俺はゆっくりと流れる退屈に身をまかせた。 放課後、俺はとりあえず部室へ向かい、ハルヒが休んだ件と心配なので家に寄ってみる件をみんなに告げると、そのまま帰り支度をして自転車に飛び乗った。 少し急ぎながら、いつもの坂道を登っていくと、ポケットの中で携帯が一度だけ震えた。 (たぶん、ハルヒからだ。) 慌てて自転車を停め携帯を開くと、案の定ハルヒからのメールだった。 『今から来れる?』 (いつもなら『今から来て』とかなのに。何だか、ハルヒらしくないな・・・) 俺は、その短いメールから今朝のハルヒの様子を思いだして、少し心配になる。 そして、手短に【もう向かってる】と送り返すと、再び自転車に飛び乗って先を急いだ。 いつもの公園に近付くと、ハルヒが時計台の下に立っているのが見えた。 少し元気が無さそうだ。 俺は自転車を停めて、ハルヒに駆け寄る。 -待たせてすまないな? 「あ、ううん・・・大丈夫。」 -そう・・・か。 会話が続かない理由は、ハルヒの様子が普通じゃない事に他ならない。 あれほど訊きたかった休んだ理由さえも訊けずに、俺はただハルヒの前に立ち尽くす。 そしてしばらく沈黙が続いた後、ハルヒが呟く様に喋り出した。 「あのね、キョン・・・」 -ん?何だ? 「驚かないで聞いてくれる?」 -あ、ああ。 「・・・アタシ・・・妊娠した・・・。」 まさか! 頭の中が、真っ白になった。 何て答えたらいいのか・・・わからない。 ハルヒは、おそらく愕然としているであろう俺に続ける。 「しばらく、生理が無かったのよ。でも、元々アタシは規則正しく来る方じゃ無かったから、特になにも気にしなかった。 でもね、何日か前から嫌な予感がして・・・今朝、コレを使ったの。」 そう言いながら、ハルヒは白い小さな棒状の物を俺に見せた。 -なんだ?それ・・・ 「妊娠検査薬。・・・ここの小さい穴にね?・・その・・・オシッコをかけるのよ。それで青い線がでると妊娠してる事になる・・・。」 ハルヒが指差した穴の部分には、まぎれもなく青い線が出ていた。 俺は、返す言葉も無く黙りこむ。 ありったけの思考を巡らすが、この現実を受けとめるので限界だ。 それに・・・考えても仕方がなかった。こんな重大な事を聞かされて、簡単に語るべき言葉が浮かぶ筈がない。 今はただ、俺の心の中の妙な反射神経が「冷静になれ、冷静になれ」と呪文の様に俺の頭の中で煩いだけだ。 -わかった!大丈夫だから・・・とにかく、また明日来るから・・・体、大事にしててな? 俺は、今言える精一杯の言葉をハルヒに告げると、その場から立ち去った。 (何やってんだよ、俺っ!まるで逃げ出すみたいじゃないか!) 情けない自分を壊してしまいたい衝動に駆られて、俺は馬鹿みたいに全力で自転車をこいだ。 さっきのハルヒの表情が、頭の中にコビリついて離れない。 (俺は、どうすればいい・・・) 気が付くと、俺は家に着いていた。 全力で自転車をこいで、少しだけ疲れたせいだろうか。 さっきより、自分が平常心を取り戻している事に気が付く。 (真剣に・・・考えなきゃな・・・) とりあえず部屋に戻り、椅子に座る。 そして、今するべき事を必死に頭の中に思い浮かべて掻き集める。 俺の親とハルヒの親に報告・・・というよりは謝る事になるか。あとは出産費用の準備・・・そして学校は・・・当然辞める事になる・・・だろうな。 中絶?まさか・・・それだけは絶対に避けたい。 俺はもの心ついた時には、産まれたばかりの妹の世話を手伝っていた。 その為だろうか、中絶という行為は絶対に許せない。 こう言うと語弊があるかもしれないが、俺にとって中絶とは「赤ん坊を殺してしまう」事と同義なのだ。 だから、このような結果になってしまった以上は、ハルヒには産んでもらいたいと思う。 ただ、それには問題が多すぎて・・・かといって、しかも考えがまとまらないうちは、誰かに相談する事も出来ない。 そして一番の問題は、まだ俺は年齢的にハルヒと一緒になれないということだ。 考えれば考える程、深みにはまっていく。 そして、どうする事も出来ないまま俺は目を閉じた。 気が付くと、窓の外はすっかり暗くなっていた。 どうやら、椅子に座ったまま眠ってしまったらしい。 明かりも灯さないまま、俺は再び考え始める。 そして、いちばん肝心な部分を忘れている事に気が付いた。 (ハルヒは、どうしたいんだろうか。) 確かめなくてはいけない・・・そう思って、机の上の携帯に手を伸ばす。 そして、ハルヒの番号を呼び出しかけて・・・やっぱりやめた。 自分の考えもまとまっていないのに、ハルヒに「お前は、どうしたい?」なんて聞ける筈も無かったから。 そして、逆に俺はどうしたいのか考えてみる事にする。 ハルヒには産んでほしい・・・その為には俺は・・・どんな努力や苦労も惜しまない・・・そして・・・ ハルヒと一緒にいたい! 一日やそこら悩んだところで、出せる答えはこの程度だろう。 しかし俺は、明日ハルヒに会って直接伝えようと思う。 ハルヒがもし、違う答えを出していたら・・・その時は仕方が無いのだが、今は考えずに行こうと思う。 とにかく、明日・・・ 結局、俺は眠れずに夜を明かした。 窓から差しこむ朝の日射しが、今日の晴天を告げている。 寝不足にも関わらず、自然と体は軽い。 とにかくハルヒに会いに行くんだ。 そして、伝えよう。 俺は、ハルヒが起きる時間を狙って電話をかけた。 -もしもし・・・? 「・・・キョン?」 -ああ。今日・・・学校はどうする? 「・・・今日も休む。」 -そうか。俺も休むよ。 「・・・なんで?」 -話があるんだ。 「昨日の・・・事だよね?」 -あたりまえだろ? 「うん・・・解った。」 十一時に行く・・・俺はハルヒそう告げると電話を切った。 そして慌てて着替え、玄関から飛び出して自転車に飛び乗ると、学校とは反対の方向へ向かって走りだした。 しばらく走ったこの先に、十時から開店するショッピングモールがある。 俺は少し時間を潰して開店を待ち、開店と同時に急ぎ足で店内へと進んだ。 そして、アクセサリー売り場の前で立ち止まり財布の中を確かめる。 (5千円と、ちょっとか・・・) とにかく、買える範囲の指輪を選ぶ事にする。 当然、ハルヒへ贈る為の物だ。 なんとなく気休地味た事かもしれないけど、俺が出した答えを伝えるには指輪が絶対に必要・・・なのだ。 ショッピングモールを出ると、慌てて買い物を済ませた筈なのに時間は十時半近くになっていた。 とにかく急ごう・・・ハルヒの待つ、あの公園へ。 いつもの公園に近付くと、ハルヒが待っているのが見えた。 なんとなく、昨日より元気そうで少し安心する。 -ごめん!待ったか? 俺は自転車を停めながらハルヒに声をかけた。 少しビクッとして、ハルヒが此方に目を向ける。 構わずに急いでハルヒに駆け寄ると余程驚いたのかだろうか、ハルヒは目を丸くしていた。 -どうした? 「う・・・うん、びっくりした。いつものキョンじゃないみたい・・・。」 (最近のお前だって、そうだったさ・・・) -いや、すまない。あのなハルヒ・・・俺、頑張るから・・・産んでくれないか? 「・・・!・・・な、なによ!突然・・・」 -本気なんだ! 「・・・ワケわかんない・・・。何て事言うのよ!アタシは、何とかするから心配しないでって言うつもりで来たのよ!? 変な事言って混乱させないでよっ、バカキョン!」 -何とかしなくていい。いや、むしろしないでほしい。 「か、簡単に考えるんじゃないわよ!アタシ達、まだ高校生なのよ?学校とかどうするのよ!」 -辞める事になる・・・だろうな。でも俺はハルヒが側に居ればそれでいい。 「・・・SOS団のみんなは?親には?何て言えばいいのよ・・・。」 -俺から話をする。 「・・・結婚だって・・・。」 -少し待てば出来るさ。 ハルヒは黙りこむと目を閉じて深く息を吸った。 そして目をあけ、少しだけ俺に近付くと静かに呟いた。 「キョンは・・・それでいいの?」 俺は何も言わずに、ハルヒの左手をそっととり、さっき買ったばかりの指輪を薬指に通した。 ハルヒが驚いて俺を見上げる。 -もし、ハルヒがそれを望まないなら・・・今すぐ外して捨ててくれ。 俺が言葉を終えないうちに、俺を見上げたハルヒの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。 そして俺を見上げたまま左手をそっと胸に当て、右手で左手の薬指を確かめる様に触れる。 「・・・バカよ。本当に・・・。」 俺もハルヒを見つめたまま、しばらく動かずにいた。 そして、ただ静かに言い様のない力が胸の奥から沸き上がって来るのを感じていた。 数時間後・・・俺達は電車の中に居た。 とりあえずハルヒを、隣町の産婦人科へ連れていく為だ。 一度は行かなければならないと思ったし、なによりも俺達は妊娠や出産に関して解らない事だらけだったから・・・。 目的の駅で電車を降りると、ホームから見える線路際の看板にこれから行く産婦人科の広告が出ていた。 (北口から100メートル進んだ左側か・・・) 俺はハルヒの手をとると、ゆっくりと歩き出した。 駅から少しも歩かないうちに、産婦人科へは辿り着いてしまった。 入り口に立つと、電車を降りてから無言のままだったハルヒが、俺の手をギュッと握り締める。 俺は「大丈夫だ」と声をかけ、入り口のドアを開けた。 病院の中には妊婦さんらしき人が一人、待合室の椅子に座っているだけだった。 空いている事に安心しながら、とりあえず受付を済ませる事にする。 ハルヒが受付に保険証を差し出すと、受付の女の人が「おや?」という顔をした。 俺は、すかさず「初診です、お願いします。」と告げ、ハルヒの手を引いてその場を離れた。 そして、待つこと数分・・・「凉宮さーん、凉宮ハルヒさーん!1番にお入りくださーい!」と呼び出しのアナウンスが流れた。 繋いだままのハルヒの手から、彼女の不安と緊張が伝わって来る。 -待ってるから・・・な? 「うん・・・行ってくる・・・。」 ハルヒはゆっくりと立ち上がると、「1」と書いてあるドアの向こうへと消えた。 「付き添いの方ですね?凉宮さんの・・・」 不意に声をかけられて顔をあげると、俺の前に看護婦さんが立っていた。 -はい、そうですが? 「1番に、お入りください。」 -俺が・・・ですか? 「はい。」 俺は訳の解らないまま、ハルヒが診察を受けている部屋へと呼ばれた。 ドアを開けると、ハルヒと向かい合って座っている先生が、俺に「彼氏さんね?」と声をかける。 若い女の先生だ・・・。 先生は少し笑いながら続けた。 「・・・短刀直入に言うわね?凉宮さんは・・・只の生理不順よ。」 -えっ? (な・・・なんでだ?そんな筈は無い・・・) 「つまり、妊娠はしていません!って事。」 -そ、そんな・・・。 ハルヒは黙ってうつむいている。 俺は、驚きを隠せずに立ち尽した。 「あら、もう少しホッとした顔をするかと思ったのに!フフッ」 -い、いや・・・でも先生!検査薬で・・・ 「確かに、アレは便利なモノなんだけどね?必ずしも正確とは限らないのよ。」 -そう・・・なんですか・・・。 「そう。でも、ホントに意外だったわ?」 -何が、です? 「いや・・・私ね?アナタがもし、少しでもホッとした顔をしようものなら怒鳴り飛ばしてやろうと思ってたのよ。 こんな可愛い彼女を不安にさせて、アンタは何をやってるんだ!ってね? だから、アナタをここへ呼んだ。」 -は、はぁ・・・ 「でも、アナタの様子を見てたら・・・そんな気は失せたわ。 余程覚悟を決めてきたみたいだし・・・ね?」 -・・・はい。 「・・・うん、まあいいわ。その覚悟に免じて、ひとつだけ忠告してあげる。 私は・・・医者の私がこんな事を言うのはどうかと思うんだけど、たとえ高校生同士であっても、愛し合ってSEXをしてしまう事はは仕方が無い事だと思ってる。」 -・・・。 「でもね?それによって、お互いが傷ついたり悩んだり・・・困ったりする様な事になるのは絶対にダメ。 だから、お互いが・・・いや、まず第一に彼氏であるアナタが、責任を持って行動しなければならない。解るわね?」 -・・・はい! 「よし!二人とも帰ってよろしい!・・・ふふっ、今日の所はお代はいらないわ。」 俺達は・・・呆然としたまま、病院を後にした。 力が抜けた・・・というか・・・何も考えられない。 ボンヤリと駅まで歩き、切符を買ってホームに向かう。 ただ、なんとなく歩いて・・・俺達は、気が付くとホームの端に居た。 -なあ、ハルヒ・・・ 「・・・なによ?」 -何か・・・飲むか? 「・・・うん。」 俺は、少し離れた所にある販売機でコーヒーとカフェオレを買い、カフェオレをハルヒに手渡した。 「・・・ふふっ」 カフェオレを受け取ったハルヒが、不意に笑い出す。 -どうした? 「ううん・・・なんか、カフェオレを買って来てくれたキョンが、いつも通りのキョンに戻った気がして・・・ さっき、アタシに指輪をくれた時のキョンとのギャップがおかしくて・・・ごめんね?」 -な、なんだよ!それ・・・ 「ごめん!それと・・・今回の事も・・・ごめんね。」 -別に・・・ハルヒが謝る事じゃないさ。 「アタシ・・・キョンの事・・・いっぱい悩ませて、しなくてもいい決心させて・・・」 そう言いながら、ハルヒは左手の薬指から指輪を抜き取って俺に差し出した。 「そして、必要無い買い物までさせちゃったわね・・・」 -ハルヒ・・・。 「ふふっ、かなり嬉しかったけどねっ!まあ、この指輪の分は後で何か奢るからさっ?」 俺は指輪を受けとると、ポケットにしまった。そして少しだけ考える。 (これで・・・良かったのか?) 「ちょっと、キョン?何黙ってんの?」 -ん?ああ・・・なあ、ハルヒ・・・ 「・・・?」 -もしも・・・もしも、だぞ?俺達の気持ちが、この先も・・・ずっと変わらずにいられたら・・・その時は・・・ 肝心な言葉を言いかけた時、俺達しか居ないホームを回送列車が騒がしく走り過ぎた。 そして、それまで線路の向こうから照らしていた西日を遮り、俺達を・・・驚いたハルヒの表情をフラッシュバックさせる。 思いがけずに激しく交錯する光の中、俺は躊躇わずにハルヒの左手をとり、薬指に再び指輪を通した。 「・・・キョン?」 気が付くと、ホームは静けさを取り戻していた。 俺は何と無く恥ずかしくなってハルヒから目をそらし、線路が続く彼方を見つめた。 そんな俺には構わず、ハルヒはいつもの調子で喋り出す。 「まったくキョンは・・・普段はトロい癖に、妙に気が早い時があって困るのよねっ!」 -う、うるさい!要らなければ返せっ! 「い・や・だ・っ!返さないっ!死んでも返さないっ!・・・うふふっ、ねえ?キョン・・・」 -な、なんだよ? 「えっと・・・一度しか言わないから、良く聞きなさいよっ?」 ハルヒはそう言うと、俺の肩を掴んで自分の方へ向かせ、グッと詰め寄って俺を見上げた。 「アタシを・・・キョンのお嫁さんにしてください。」 おしまい